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FIFAランク162位、W杯予選に挑戦!
吉田達磨監督のシンガポール改革。
text by
飯尾篤史Atsushi Iio
photograph byGetty Images
posted2019/07/26 11:50
シンガポール代表監督に就任した吉田達磨。西野朗、本田圭佑らとともに指導者としてW杯アジア予選に挑む。
試合を投げることなく逆転勝ち。
後半に入ると、ソロモン諸島の逆襲を受け、瞬く間に逆転されてしまう。しかし、ここからシンガポールが底力を見せる。
「すぐに諦めてしまう、試合を投げてしまう傾向がある、っていうことは事前に聞いていたんですけど、4-3で逆転勝利を飾ったんです。課題もいっぱいあったし、無駄もいっぱいあるんだけど、いい手応えを掴むことができましたね」
続くミャンマー戦は、システムを4-1-4-1から3-4-3へと変更し、メンバーも半数近くを入れ替えて臨んだ。
「選手を試したかったし、こういう戦い方もあるよ、というのも見せたくて、システムを変えました。練習時間はほとんどないから、いくつかのポイントを落とし込んだだけだったんですけど、初戦に出られなかった選手が高いモチベーションで臨んでくれた。1-2で敗れたんですけど、初戦よりも内容が良かった」
「自虐はやめようよ。褒め合おう」
ただ、2試合を通じて大きな課題も見えた。ひとつは予想外のことが起きたとき、パニックに陥り、焦ってしまうこと。もうひとつは技術的なミスが多いこと、である。
「ミスが出ると、スタッフは『あちゃー』と顔を覆うし、スタジアムの雰囲気も『あ~あ』ってシラけた感じになる。それで選手はナーバスになり、怖がってトライしなくなる。
シンガポールに来て思ったのは、自虐が多いんですよね。『ここは、シンガポールだから』とか。その背景にはプライドの高さがあると思うんですけど、『もう自虐はやめようよ。褒め合おう。その空気をスタッフから作っていこう』という話もしました」
試合を終えてホテルに戻り、夕食の最後に挨拶を求められた吉田は、選手たちを褒め、鼓舞した。
「本当によくやった。これだけできるとは思っていなかった。ただ、これだけできるのに、テクニックのミスでパスが通らない。早く蹴れないから、フリーの選手がフリーでなくなってしまう。悔しくないか? もったいないよ。みんな、各チームに戻ったら、自分にフォーカスして取り組んでほしい。そして、また9月に会おう」
もちろん、競争だから会えない選手もいる。だが、再会して、もっと彼らを指導したいと吉田が思ったのは、紛れもない事実だった。
「スタッフから『今、何したい?』と聞かれたので、『明日また、みんなと一緒に練習がしたい』と答えたら、選手たちはクスクス笑っていましたね」