Jをめぐる冒険BACK NUMBER
FIFAランク162位、W杯予選に挑戦!
吉田達磨監督のシンガポール改革。
text by
飯尾篤史Atsushi Iio
photograph byGetty Images
posted2019/07/26 11:50
シンガポール代表監督に就任した吉田達磨。西野朗、本田圭佑らとともに指導者としてW杯アジア予選に挑む。
ラマダン期間の中でトレーニング。
シンガポール代表監督としての最初の仕事は、6月の2連戦だった。6月8日にソロモン諸島(FIFAランキング140位)、6月12日にミャンマー(FIFAランキング138位)と親善試合を戦った。相手はいずれも格上である。
6月3日に行われたトレーニング初日、選手の前に立った吉田は、熱く訴えた。
「いつかではなくて今、誰かがじゃなくて君たちが、変わるんだ。俺は君たちのことをよく知らない。それは大きなチャンスだ。君たちの能力、モチベーション、プライドを俺に見せてほしい」
だが、いきなり困難に見舞われた。カルチャーショックと言ってもいい。
「ちょうど、ラマダン(イスラム教徒が行なう断食)期間だったんです。代表チームは中国系の選手がひとり、あとは全員マレー系だから、ひとりだけ普通に食事を摂っているけど、残り全員、日中は食べられないし、水も飲めない。昼間は暑いので練習は17時からなんですけど、日が沈むのは19時過ぎだから、1日の一番苦しい時間帯に練習をすることになる」
トレーニング2日目の6月4日にラマダンが終わり、翌日はラマダン明けを祝う国民の休日のため、練習もオフ。その後、試合まで2日しかないから、練習らしい練習はできなかったが、ソロモン諸島戦でシンガポールは、開始早々ゴールを奪う。
「いきなり4分に先制したんです。しかも、サイドに起点を作ったら必ずひとりランニングして、そこにクロスを入れるという練習で徹底していた形で。練習ではなかなかうまく行かなかったけど、たまたま意図した形でゴールできた」
リードしているハーフタイムなのに。
1-0とリードしたままハーフタイムを迎え、選手たちがロッカールームに引き上げる。さぞ活気づいているかと思いきや、吉田がロッカールームに入ると、まるでお通夜のような雰囲気が漂っていた。
「初戦で緊張していただろうし、頭を使ってサッカーをしたから、疲れてぐったりしてるんですよ。それで『あれ、今日セカンドハーフ、なかったっけ?』って」
すると、選手たちの間に笑いが起きた。
そこで吉田は、畳み掛けるように続けた。
「疲れただろう。そりゃそうだよ。頭も使ってサッカーをしているんだから。でも、凄いよ。戦術的にとてもうまくやれている。しかも、狙いどおりに1点取ったじゃん。後半も同じように、君たちの持っているものを見せてくれ」