シンガポールで逆に教わったこと。

　小学生時代にアセノというクラブチームでサッカーが上手くなるコツを教わり、中学生時代には日立でサッカーの面白さを学んだ吉田にとって、指導者になることは、その頃からの夢だった。

「もともとはレイソルだから監督をやりたい、と思っていたんですけど、それから先はまったく考えていなかった。でも、レイソルを志半ばで離れることになって、やっぱり大きく傷つきましたけど、新潟、甲府という素晴らしいチームで監督をやらせてもらう機会を得た。結果は恥ずかしいですけど、恥ずかしい仕事をしたことはないとも思っていたから、早く次のチャレンジがしたかったんです」

　これまで蓄積したものすべてを伝えるつもりでやって来たシンガポールで、約10日間の指導を通して、逆に教えられたものがある。

「彼らを指導して思ったのは、サッカーをエンジョイしているな、っていうこと。僕自身はいつの頃からか、サッカーが突き詰める対象や勝負事になっていて、その原点にある楽しむ気持ちが薄れてしまっていたんです」

変わりたい彼らの中で自分も変わる。

　シンガポール代表で、吉田には成し遂げたいことがある。

「今はまだ自信を持てない彼らと、自信のあるサッカーをしたい。誇りを持てるグループを作り上げたい。変わりたいと思っている彼らの中に飛び込んで、自分も変わる。日本でやっていた姿のままでは受け入れてもらえないですから。勝つ、負けるじゃなくて、自信と誇りを胸に彼らと戦っていきたいですね」

　7月17日、カタール・ワールドカップ・アジア2次予選の組分け抽選会が行なわれ、シンガポールはサウジアラビア、ウズベキスタン、パレスチナ、イエメンとともにグループDに入った。「日本と同じグループになって、なんとか食い下がりたい」と話していた吉田にとっては、少し残念な抽選結果だったかもしれない。

　サウジアラビア、ウズベキスタンといった最終予選の常連と同居する厳しいグループなのは間違いない。だが、ワールドカップ予選という真剣勝負の場で勝点を掴み取っていくことこそが、代表選手や代表チームの自信や誇りに繋がっていくはずなのだ。

　果たして、“吉田シンガポール”はサプライズを起こすことができるのか――。西野朗監督率いるタイや本田圭佑が総監督を務めるカンボジアとともに、アジアのサッカーを盛り上げてほしい。