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パ・リーグ「伝説の10・19」と
南海、阪急「身売り」の舞台裏。 

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鷲田康

鷲田康Yasushi Washida

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photograph byShinchosha

posted2019/07/21 11:30

パ・リーグ「伝説の10・19」と南海、阪急「身売り」の舞台裏。<Number Web> photograph by Shinchosha

「10・19」は近鉄が連勝すれば優勝だったが、2試合目で引き分けて2位に終わった。

具体的な売却3条件。

 12日の夜、南海オーナーの吉村茂夫の自宅には新聞記者が詰めかけ、吉村は記者を自宅にあげて応接間で取材に応じていた。

 この取材で吉村が「最後は私が中内さん(功ダイエー社長)と直接話すことになるだろう」と語り、各社は一斉に吉村宅を飛び出していった。しかしその後も読売と毎日、遅れてきた夕刊フジの記者が吉村宅に残り、さらに話を聞いている。その中から読売だけが(1)ホークスの名前は残す(2)選手の待遇を改善する(3)監督の杉浦忠監督を留任させる、という具体的な売却3条件を報じているのだ。

 同じ取材の中でなぜ読売記者だけがこのスクープをものにできたのか。相手の表情を見て、話を聞き、それまで蓄積してきた情報を精査していかに本質に迫るか。映画や小説の世界ではない新聞記者の本当の取材の姿が、そこには描かれている。

有藤はヒールなのか?

 物語の最後は「10・19」の死闘で締めくくられるが、そこでも丹念な取材があるもう1つの事実を炙り出してきている。

 問題となった第2試合9回裏の判定を巡るロッテ・有藤道世監督の9分間にわたる猛抗議だ。本書では一方の当事者であるすでに鬼籍に入ってしまった仰木彬監督の言葉はないが、有藤監督だけでなく客観的な第三者として前川芳男球審らの取材もしている。その結果、あの抗議に至る伏線となった仰木監督の行動と発言などもあぶり出して客観的な解明を行なっているのだ。

「有藤はヒールなのか?」

 閑散とした普段とは異次元の世界となった喧騒の川崎球場でいったい何があったのか。そこも本書のもう1つの読みどころである。

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