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安部裕葵をバルサへ導いた成長欲。
「挑戦する回数が人生では大事」
text by
寺野典子Noriko Terano
photograph byAFLO
posted2019/07/12 19:15
鹿島アントラーズからバルセロナへ。安部裕葵の大挑戦が始まろうとしている。
内田篤人が話していた安部評。
サッカーはひとりでできるスポーツではないし、ボールを持った時のプレーだけがサッカーではない。自分のポジショニングが味方を動かし、チームを変えていく……それを意識するようになった。
試合に出続けるために、自身に足りないものを探す。きっと鹿島の中で、そんな思考が必要だと気づいたのだろう。
優勝したACLでは守備でも奮闘し、クラブW杯ではゴールも決めた。レアル・マドリーに敗れた後、周囲の目を気にすることなく、号泣していたことも懐かしい(実は本人は当時から現在まで、この話をしたがらない)。
「裕葵の練習に対する強度には、『海外でやる』という意志が見え隠れしてる。そういう追い込み方でやっている。べつにハッパをかけなくても頑張れるタイプだから」
内田篤人は安部について、そんなふうに話していたのが印象深い。
「サッカーは助け合いだから」
背番号10を担った今季の安部は、先発出場が減った。また得点やそれに繋がるアシストなど、目に見える仕事というのは少なくなったかもしれない。それでも、本人は「伸び悩みだとかそういうことは感じていない」と話している。
その中で心境が垣間見えたのは、4月のACLグループステージ、アウェーでの慶南戦でのことだった。チームは2点ビハインドから逆転勝利したが、安部に笑顔はなかった。チーム全体がうまくいかなかっただけでなく、安部自身が活きる場面も少なかったからだ。
「仕掛ける場面、ドリブルする場面がなかった。そういう位置で受けないといけないのも確かだけれど、ボールを受けられないので、もうひとつ手前の位置でプレーするしかなかった。そうなると窮屈だし、やはり自分の得意な位置、形でボールをもらいたい。でもそんな自分の思い通りにはいかないので。
サッカーはチームスポーツだし、助け合いだから。僕も味方に助けてもらっているし。でもちょっとでも早く自分のスタイルを確立できれば、チームの助けにもなると思う。それができるようになりたい」
自分のやりたいプレーを表現できないというストレスはどんな選手でも持つものだ。しかしそれを飲み込んで「助け合いだから」と言い、そして「個も大事。それをもっと磨きたい」と前を向いた。
3分程度の会話だったが、彼の気持ちや切り替えの速さ、そして思慮深さを思い知った。