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戦力外通告からCL優勝の逆転人生。
諦めの悪い主将ヘンダーソンの涙。 

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寺沢薫

寺沢薫Kaoru Terasawa

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photograph byAFLO

posted2019/06/03 11:10

戦力外通告からCL優勝の逆転人生。諦めの悪い主将ヘンダーソンの涙。<Number Web> photograph by AFLO

父親のブライアンさんと写真に収まるジョーダン・ヘンダーソン。子どもの頃からの夢をかなえた瞬間だった。

“戦力外通告”も残留を選んだ。

 2012年にブレンダン・ロジャーズ監督がやってきた。

 新監督は、当時フルアムにいたクリント・デンプシーという選手が欲しかった。彼と契約するためのトレード相手の候補として、ヘンダーソンの名前が挙がった。ロジャーズ監督から受けた「クラブを出て行ってもいい」という電話は、つまり“戦力外通告”だった。

 だが、ヘンダーソンはクラブに残ることを選んだ。

「ここに残って、戦って、成長して、監督が間違っていたことを証明したい」

 その一心で、彼はフットボールに打ち込んだ。監督はもちろん、チームメート、フィジオ、栄養士までチームの誰もに話しかけ、「どうやったらもっと成長できるか」を聞いて回った。

 居残り練習をして、課題をひとつずつ克服していった。ただ横パスを出すだけでなく、パス&ムーブに適応できるように技術と体づくりを見直した。ポジショニングを改善し、ボックス・トゥ・ボックス型(攻守に幅広く関与するタイプ)のMFとして相手のゴール前でも仕事ができるよう意識改革をした。

ジェラードとは対照的な主将像。

 そうやって、彼は徐々に認められていった。気づけば、ロジャーズ監督は先発リストに欠かさずヘンダーソンの名前を書くようになった。また彼のことを「我々のグループにおけるモラル・コンパス(倫理基準)」と言い、ジェラードが欠場した試合ではキャプテンマークも任されるようにもなった。

 そうやって周囲の評価を覆す不断の努力を見ていたジェラードは、「苦しい時も一貫して前を見続け、ファンの目を変えた。選手としてだけでなく、1人の男として尊敬に値する」と彼について語っている。だからこそ、2015年、ジェラード退団に伴い彼が正式に新キャプテンに任命された時、クラブの誰からも異論の声は上がらなかった。

 カリスマ性があり、卓越したプレーと大きな背中で語るジェラードに対し、ヘンダーソンは忠誠心や誠実さで周囲の手本となり、協調性や対話を重んじるリーダーで、タイプは違う。

 だが、その姿勢と人間性は周囲の信頼を大いに集める。

【次ページ】 ベテランから若手まで意見を求める。

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