ビッグマッチ・インサイドBACK NUMBER
戦力外通告からCL優勝の逆転人生。
諦めの悪い主将ヘンダーソンの涙。
text by
寺沢薫Kaoru Terasawa
photograph byAFLO
posted2019/06/03 11:10
父親のブライアンさんと写真に収まるジョーダン・ヘンダーソン。子どもの頃からの夢をかなえた瞬間だった。
今季は出場機会を大きく減らしたが。
そして今季もまた、3位決定戦まで戦い抜いたロシア・ワールドカップで負ったケガや疲労の影響により、シーズン序盤に出場機会を大きく減らすという試練に直面した。W杯がなかったジョルジニオ・ワイナルドゥムとジェイムズ・ミルナーが好調で、ファビーニョ、ナビ・ケイタも加わった中盤のポジション争いで、彼は大きく出遅れた。
だが、チーム・ファーストの精神を体現する男は、自身がピッチに立てなくとも、決して腐らない。サブだった間は常にベンチからチームを盛り立て、そしてシーズン終盤戦にチャンスが巡ってくるようになると、今度はピッチでフォア・ザ・チームの魂を見せる。
ファビーニョがアンカーに定着したことで、自身が最も好む“8番”のポジションに戻されたヘンダーソンは、CLラウンド16のバイエルン戦や準決勝のバルセロナ戦、そしてもちろん、決勝のトッテナム戦といった大一番で、誰よりも走り、戦い、タックルし、パスを出した。
「私の都合で1年半ほどホールディングMF(6番)としてプレーしてもらったが、彼はこのポジション(8番)が好きだし、我々はそこに彼を必要としていた。もう一度そこでやれることを示すことができて嬉しいよ」
クロップもそう絶賛するプレーぶりで、彼はまたしても人生の“逆転”を成し遂げたのだ。何度つまずいても不屈の闘志で立ち上がる。その姿はまさしくリバプールというクラブそのものだ。
子供の時に父親とかわした約束。
話を6月1日のマドリードに戻そう。
CLファイナルでトッテナムを2-0で破り、クロップの腕の中で男泣きし、堂々とトロフィーを天高く掲げた後で、ヘンダーソンは再び涙を流している。表彰式を終え、チームメートやスタッフとひとしきり喜びを分かち合った後、ヘンダーソンは小走りでピッチの端っこへと向かって行った。
現地のテレビカメラは、そこでヘンダーソンがピンクのシャツを着た初老の紳士と涙ながらに抱擁する場面を放送した。抱き合っていたのは、彼の父であるブライアン・ヘンダーソンさんだった。
父との間には、こんな約束があった。
ブライアンさんは2003年、当時12歳の息子を、オールド・トラッフォードで行われたミラン対ユベントスのCL決勝に連れて行ったという。両チームの選手が入場し、CLアンセムが流れてくると、ジョーダン少年は父に「お父さん、僕もいつかここでプレーする」と言ったそうだ。