マスクの窓から野球を見ればBACK NUMBER
なぜこの選手が育成だったのか……。
巨人・山下航汰が近々“来る”気配。
text by
安倍昌彦Masahiko Abe
photograph byKyodo News
posted2019/06/02 11:30
高崎健康福祉大高崎時代の山下航汰。大型補強が目立つ巨人だが、彼のような原石も二軍で磨きをかけている。
「育成指名でもありがたいです」
「育成でも指名していただけただけ、ありがたいです」
おだやかな笑顔で、ものすごくフラットな語り口。
強豪のクリーンアップを1年から打ち続けた選手というよりは、よく勉強している大学生みたいな高校3年生だった。
「球場によってベースの高さがまちまちなの、知ってます?」
話の途中で、不意にこんなことを振ってくる。
「ベースの高さを知っておけば、ターンの時に自信を持ってMAXの勢いでベースを蹴れるんですよ」
外野のポジションへの行き帰りに眺めていて、フッと気がついたそうだ。高校野球の試合会場は、試合のたんびに変わるから、初回のポジションへの行き帰りに必ず確かめるのだという。
野球に関しては「博士」ですから。
「あいつ、野球に関しては『博士』ですから……」
健大高崎の指導陣のひとりが教えてくださった。
「インコース打ちは、横からボールを上げてもらって、ティーバッティングをやるんです。自分が左打席に立っているとしたら、右打席の方向からボールを上げてもらって、体にぶつからないようにさばく……そうすると、体の鋭い回転がないとインコースが打てないのが、体感でわかるんで」
その通り“実演”してくれた、そのスイングの見事なこと。
作ったところのない自然な構え。トップの割れに過不足がないから、バットの振り出しが鋭くて、体がクルンとスピンして体の前でバットを大きくさばくと、体に当たりそうな位置に上げられたボールがライト方向へ雄大な放物線となって美しい弧を描く。
このバッターが働けなくて、いったい誰がプロで活躍できるのか?
9年前、八戸大・秋山翔吾外野手(現・西武)を見たときと同じ“感動”がわき上がったことを思い出す。