太田雄貴のEnjoy FencingBACK NUMBER
英語力向上が日本フェンシング強化に?
太田会長の「GTEC」導入の狙い。
text by
太田雄貴Yuki Ota
photograph byJapan Fencing Federation
posted2019/05/31 16:30
「年間活動方針 発表会」の会見は六本木ヒルズで行われ、28もの媒体が集まった。フェンシングへの注目度の高さが窺える。
引退後に生かす「武器」を現役時代に。
GTECの話にしても、そもそも代表入りの可能性がある選手たちは、すでに国際試合を転戦し、経験を積み、各地でコミュニケーションをとっています。その点で、本来的にグローバルな人材のはずです。彼らは、フェンシングをやっていた経験や、第一線で競い続けたというプライドをもとに、さまざまな分野で活躍することだってできる。
そんな可能性を秘めたアスリートに、あくまで機会を、そして社会人としてのサーベル=「武器」としての英語を提供したい。その思いが、GTEC導入の原点にあります。
私は2012年のロンドン五輪以降、経営者の方々などを含めて、いろいろな方とお会いし、半ば現役、半ばビジネスマンのような時期がありました。たまたま周囲の人々に恵まれたわけなのですが、そうしたリレーション(関係)は、現在まで続いており、そこからさまざまな実りが生まれています。
つまり、現役時の環境は、引退後の未来のためにも十二分に活用すべきではないか、と考えています。
世間を見渡しても、引退した選手よりも、現役選手であることのほうが、人々に興味を持ってもらえることは多いはずです。
現役の間に、アスリートとしての日々に役立ちながらも引退後も生かすことができる「武器」を持ち、豊かな環境を築いていくということ。
これがアスリートの未来へつながっていくのです。
毎日30分、オンライン環境も。
実は、今回の取り組みについては、昨年の段階で選手たちにも伝えてあり、昨年1度、今年も既に1度、選手およびコーチングスタッフたちにGTECを受けてもらっています。
この制度導入も、決して急な話ではなく、2021年4月から、ということで余裕もあります。
強化の時間が奪われるという声もあるかもしれませんが、選手たちは丸一日練習しているわけではありません。最長でもおそらく6時間程度で、私も選手だったからわかるのですが、意外と時間はあります。
たとえば毎日30分英語を学習することが、選手としての強化を邪魔するような負担になることはないのです。
それに選手たちは、これまで英語を勉強したいと思っても、経済的理由、あるいは世界を転戦する中で勉強環境が整わない、といった物理的理由で、諦めてきたこともあると思います。しかしこれ以降は、選手たちは無償で、しかも世界中どこにいてもネット環境さえ整えばオンラインで学習することができます。それに、学生選手ならば、これを機に学校の授業を頑張れば、すぐに基準を超えることができるでしょう。
何よりも、英語は成果が実感しやすいものです。テストの結果はもちろんのこと、東京五輪へ向けた選考期間に入った今、世界を転戦しながら、コミュニケーションがとれている/いないということを誰よりも実感するのは、選手自身であるはずです。