太田雄貴のEnjoy FencingBACK NUMBER
英語力向上が日本フェンシング強化に?
太田会長の「GTEC」導入の狙い。
text by
太田雄貴Yuki Ota
photograph byJapan Fencing Federation
posted2019/05/31 16:30
「年間活動方針 発表会」の会見は六本木ヒルズで行われ、28もの媒体が集まった。フェンシングへの注目度の高さが窺える。
コミュニケーションのための「環境」。
まず「GTEC」の概要についてお伝えしましょう。これは「聞く」「話す」「読む」「書く」という4技能の英語力を測定するものです。2018年度の受検者数は125万人にのぼります。
私たちが今回、選手たちに達成してほしいGTECの点数として設定したレベルは、CEFR(セファール:ヨーロッパ言語共通参照枠)という世界標準に照らし合わせると「A2」というもの。日本では、だいたい高校卒業程度のレベルです。
万が一、その基準に選手が満たなかったとしても、「話す」技能において基準点を上回れば、世界選手権には出場できるような救済措置も用意しています。
ひとつ強調しておきたいのは「テストをやるだけで放任するわけでは決してない」ということです。テストを設けるから、それぞれに頑張って勉強しておきなさい、というわけではありません。
たとえば選手の強化のためにトレセンなどの施設やコーチ、海外遠征などが「環境」として整備されているように、選手の英語コミュニケーション能力強化のための「環境」もまた、準備します。具体的には、選手たちが日常的にオンラインで英会話をトレーニングできる環境も、べネッセさんと私達協会が一緒に作っていくことになります。ここについて、選手たちは金銭的な負担を課されることはありません。
現役時代に感じた言語の重要性。
では、そもそもなぜ、私がこうした策をとることにしたのか。
これらは単なる思い付きではなく、私が2017年に会長に就任して以来、ずっと温めてきたアイデアです。
端的な背景として、英語ができないということは、フェンシング選手にとって非常に大きな、「機会損失」である、ということが言えます。英語ができなくて困っている人は見たことがありますが、できて困っている人は見たことがありません。
まず、現役時代。海外から招聘されたコーチとのやりとり、国際試合での他国の選手との情報交換、審判との交渉――まとめればさまざまなコミュニケーションの場面で、英語ができるに越したことはありません。
実際のところ、フェンシングは判定が大変むずかしい競技なので、最終的に「審判の勘」で判定が決まってしまうことがあります。国際試合でそういった微妙な判定がくだったときには、英語で抗議したり主張するのが通常であり、これもまた競技の一部です。
ところが英語力が低いと審判に自らの主張が通じず、英語の話せる対戦相手の言い分だけ認められてしまう可能性がある。その意味でも、抗議できる程度の英語は必要だ、と考えています。
そして選手としての引退後。英語力があれば、国際フェンシング連盟や各国のコーチといったポストへの道が開かれ、あるいはフェンシングとは関わりのない仕事に就く場合でも、働く際の「スキル」の一つを備えている、ということで、選択の自由がより大きくなります。