“ユース教授”のサッカージャーナルBACK NUMBER
チョウ監督と被るクロップの姿。
大誤審があっても湘南が勝てた理由。
text by
安藤隆人Takahito Ando
photograph byTakahito Ando
posted2019/05/20 17:00
Jリーグ史に残る誤審になったのは間違いない。それでもその苦境を跳ね返したベルマーレは称えられるべきだ。
9日前に監督が発していた予言。
実はチョウ監督は、この大逆転劇を予言するようなコメントを9日前に発していた。
5月8日のルヴァンカップ、Vファーレン長崎戦を1-0で勝利した後のことだ。この試合の前、リバプールはホームのアンフィールドでバルサ相手に4-0で勝利し、ファイナル進出を決めていた。それについてチョウ監督はこのように語っていたのだ。
「リバプールの試合は、奇跡なのかもしれないけど、奇跡じゃない部分もある。フィルミーノとサラーという攻撃の核がいない中で、バルセロナを相手にあれだけの前に出るディフェンスと攻撃ができる。それは、絶対にクロップがチーム全員に何をやらなければいけないかを落とし込んでいると思う。
誰かがいないから負けたのではなく、ピッチに立った選手全員が勝ちたいと思っている。ああいうのは、どのタイミングで『俺たちはこれをやるんだ』というこだわりを伝えて、徹底させられるか。勉強になった」
今回の勝利は、たまたまではない。
浦和戦で、リバプールがやったことを、湘南がやってみせた。チョウ監督がクロップに見えた瞬間だった。浦和戦後、チョウ監督はこう話している。
「上手くなりたい、勝ちたい、諦めないという気持ち。日々の練習で、ピッチの中と外で彼らと一緒に向き合っていく。それがピッチに出る。今日、僕が選手に言った『金言』はなくて、普段のピッチ(でやっていること)が後半に出た。
これは自慢でも、驕りでも何でもなくて、ただ日常が出た。ひとつひとつ向き合ってやってきたことで、今日のようなプレゼントがあった。たまたまかもしれないが、たまたまという言葉ではすませない彼らの強い思いがあった」
誤審からの試合展開は、まさに「ノンストップフットボール」だった。
「ノンストップフットボール」はチョウ監督が就任してから、湘南の代名詞となっているスタイルだ。これは「攻守の一体化」、つまり守備から攻撃、攻撃から守備の切り替えを一切やめず、ノンストップで繰り返し、相手に襲いかかる。
日頃からの強烈な意識づけと、日常的なハードワーク、勝利へのメンタリティーの植え付け。それができたからこそ難しい局面に追い込まれても、自分たちが立ち返るべき原点を、全員が共通して意識することができた。