“ユース教授”のサッカージャーナルBACK NUMBER
チョウ監督と被るクロップの姿。
大誤審があっても湘南が勝てた理由。
text by
安藤隆人Takahito Ando
photograph byTakahito Ando
posted2019/05/20 17:00
Jリーグ史に残る誤審になったのは間違いない。それでもその苦境を跳ね返したベルマーレは称えられるべきだ。
「練習通り」にできたことの価値。
79分、こう語っていた山根が右サイドに抜け出した野田にパスを送ると、野田は突破からマイナスの折り返し、これを再び菊地が蹴り込んだ。2-2。ついに湘南が試合を振り出しに戻した。
「中盤をダイヤモンドにして、さらに攻撃の枚数が増えたことで、攻撃の距離感が近くてボールを動かしやすかった。中盤で数的優位を作っていけた。2点目のクロスも(ゴール前に)入るフリをして止まって、そこからマイナスの折り返しを受けるイメージ。練習通りだった」
野田が口にした「練習通りだった」。この言葉の持つ意味は重い。
不利を受けたり、不安定な状況でこそ、勝利のためにすべてを出し切れるメンタリティーがあるかが重要になる。それを練習でやっているか否か――そういう意味で、ピッチには日常が出るのだ。
みたび異様な雰囲気に包まれる中で、湘南はよりいっそう圧力を強めた。両チームのサポーターのチャントが鳴り響く中、後半アディショナルタイムのラストプレーに湘南の想いは結実する。
90+4分、ファブリシオのシュートをGK秋元が抑えると、すぐさまパントキックで右サイドの山崎へ。山崎がボールを収めてから、中央に駆け上がった山根へクサビのパスを打ち込むと、これを受けた山根はそこから右中央に流れるようにドリブルで運ぶと、そのまま右足一閃。シュートはブロックに来たDFに当たって、ゴールに吸い込まれていった。そして、次の瞬間、主審のタイムアップのホイッスルが鳴り響いた。
スタジアムはこの日、4度目の異様な雰囲気に包まれた。
クロップのようなガッツポーズ。
「オープンな展開になっていたので、ラストチャンスと思って前目にポジションを取っていた」(山根)
勝利しか目指さなかったからこそ、秋元はクイックスタートをしたし、山崎もすぐに前を向き、山根もトップスピードで前に走り込み、ドリブルでシュートまで持ち込めた。そしてこの時、大外には古林、逆サイドには松田も走り込んでいた。
湘南は選手、スタッフ全員がピッチになだれ込み、揉みくちゃに抱き合って全身で喜びを爆発させた。
試合後、チョウ監督は真っ先にアウェイゴール裏に陣取る湘南サポーターに向かった。興奮した表情でジッとサポーターを見つめてから、急なアクションで渾身のガッツポーズとともに雄叫びを上げた。
その姿で思い出したのは、CL準決勝でバルセロナ相手に大逆転勝ちしたリバプールである。アンフィールドでサポーターに向けて、ユルゲン・クロップ監督が起こしたアクションと同じだったのだ。