ひとりFBI ~Football Bureau of Investigation~BACK NUMBER
見せてもらおうか、J1王者の技を。
イニエスタを牛耳った川崎の連動。
posted2019/05/14 10:30
text by
北條聡Satoshi Hojo
photograph by
J.LEAGUE
相手に何もさせなかった――。
そんな賛辞のよく似合う絶対的な強者には名勝負が生まれにくい。ただただ敵を一方的にやり込めて終わりだからだ。
当代随一の名将ペップ・グアルディオラが率いたバルセロナ(スペイン)の最盛期もそうだった。故ヨハン・クライフが礎を築き、直系の弟子たるペップが引き継いだバルサの幹の1つが、この「相手に何もさせない」という哲学、戦術思想だろうか。
僕のボールは僕のもの。君のボールも僕のもの――。
ひとたびピッチに立てば、侵攻と略奪の嵐である。言ってしまえばジャイアン的。しかも絢爛華麗なパスワークという見映えの良さで人々を虜にしてしまう。言わば、イケメンのジャイアンだ。
プロ化から四半世紀が経ったJリーグで、イケメンのジャイアンが現れたケースはほぼない。マイボールでは男前も相手ボールでは及び腰。略奪どころか、自陣に引きこもる。そんなイケメン風のび太が多かったからだ。数少ない例外と言えば、流動的なパスワークと苛烈なプレッシングで武装された最盛期のジュビロ磐田くらいだろう。
イケメンのジャイアン、川崎。
だが、ついに現れたのである。イケメンのジャイアンを志す勇敢な一団が。ほかでもない、川崎フロンターレだ。
個々の技術を徹底的に磨く風間八宏前監督がボールを持って敵陣に押し込むスタイルを定義し、根づかせると、2017年に跡目を継いだ鬼木達監督が相手ボールの即時回収という補完作業に着手する。すると、あっさりJ1初制覇。さらに、継続へと移行した昨年に連覇を成し遂げる。
その途上で、名勝負が生まれた。
川崎に真っ向から挑むチームがあったからだ。ヴィッセル神戸である。日本代表が16強入りしたロシア・ワールドカップが終わってもなお、サッカー界がざわついていた。