Jをめぐる冒険BACK NUMBER
JリーグCSには魔物が棲んでいる。
広島とガンバが味わった天国と地獄。
posted2019/05/13 11:00
text by
飯尾篤史Atsushi Iio
photograph by
J.LEAGUE
華々しい舞台装置はときに役者の力を最大限に引き出すが、ときに平常心を奪い、失態を演じさせもする。
11年ぶりに開催されたチャンピオンシップが改めて教えてくれたのは、そんな大舞台の怖さ、だったかもしれない。
2015年の12月2日、万博記念競技場で開催されたチャンピオンシップ決勝第1戦のカードは、ガンバ大阪対サンフレッチェ広島。連覇を狙うG大阪は年間勝ち点3位。敵地での一発勝負となった準決勝で宿敵・浦和レッズを破り、勝ち上がってきた。
一方、2年ぶりのリーグタイトルを狙う広島はセカンドステージ優勝、年間勝ち点でも1位。シードされ、準決勝の勝者を待ち構えていた。
前半はG大阪の攻勢でゲームが進む。阿部浩之が、宇佐美貴史が渾身のシュートを見舞い、GK林卓人がかろうじてセーブする。むろん、広島も負けていない。G大阪の攻撃をがっちり受けとめ反撃に出る。佐藤寿人の強烈ヘッドは、わずかに枠を逸れた。
その一進一退の攻防に、万博を埋めた1万7844人の観衆は、両拳に力を込める。ひりひりとした空気が真冬のスタジアムに張り詰めていた。
森崎和幸と佐々木翔の連係ミス。
そんな締まったゲームは、しかし、普段なら起こりえないミスをきっかけに、大きく動き出す。失態を犯したのは、そうしたミスとは縁遠いボランチの森崎和幸だった。
60分、佐々木翔からのなんでもない横パスを後ろにそらすと、それが長沢駿にわたり、先制ゴールを叩き込まれてしまう。
「(後ろにいた)千葉(和彦)ちゃんから名前を呼ばれたから、触らずに任せようと思ったら、千葉ちゃんは僕からパスを受けようと名前を呼んだみたいで。コミュニケーションのミスというか、大舞台でやってはいけないミスでした」
試合後、森崎はそう悔やんだ。そのまま敗れていれば、悔やんでも悔やみきれないミスだったに違いない。
だが、この大舞台はさらなるクライマックスを要求するのだ。