ひとりFBI ~Football Bureau of Investigation~BACK NUMBER
見せてもらおうか、J1王者の技を。
イニエスタを牛耳った川崎の連動。
text by
北條聡Satoshi Hojo
photograph byJ.LEAGUE
posted2019/05/14 10:30
イニエスタがいる。それだけで会場には高揚感が漂ったが、川崎がそれを打ち砕いたというのが痛快だったのだ。
ヤツだ、イニエスタが来たんだ!
間違いない。ヤツだ、ヤツが来たんだ!
いや、本当に来たのである。アンドレス・イニエスタが。最強バルサの一翼を担ってきたスペインの鬼才が破格の待遇で神戸に加わり、Jのピッチに立つことになった。
さらに同じスペインの指導者フアン・マヌエル・リージョが新監督に就任。触れ込みは「ペップの師匠」である。その実は影響を与えた指導者の1人に過ぎないだろうが、その哲学はバルサのそれとよく似たものだ。
川崎対神戸、ドS対ドS、互いにイケメンのジャイアン対ジャイアン。これなら十分に名勝負の余地はある。事実、そうなった。
開始10分、いきなりスコアが動く。ホームの川崎が敵陣左を崩し、知念慶の折り返しを拾った登里享平がエリア内で倒されてPKを獲得。これを主砲の小林悠が落ち着いて蹴り込み、早々と先手を取った。
だが、数分後にあっさり追いつかれてしまう。イニエスタからルーカス・ポドルスキとつながれ、最後は混戦からのオウンゴール。これを機に西のジャイアンが巧みにゲームの流れを引き寄せていく。
リージョ神戸の術中にハマった。
川崎の陣形は中村憲剛をトップ下に据える4-2-3-1ではなく、前線に小林と知念を並べる4-4-2スクエア。負傷中の守田英正に代わり、中村を1列下げ、大島僚太とのドイスボランチで臨んでいた。
一方、神戸の陣形は中盤の4人をひし形に並べた4-4-2ダイヤモンド。トップ下にポドルスキ、アンカーに藤田直之、右のインサイドに三田啓貴、そして左のインサイドに注目のイニエスタをもってきた。
川崎が例によって失ったボールの即時奪回を試みるが、要のプレスがハマらない。試合後、登里は「相手との距離が長くて寄せきれなかった」と振り返る。無理もない。左右のサイドバックの眼前に捕まえるべき敵がいないのだ。そのぶん、神戸は中盤の中央寄りで数(2人分)と空間の優位を得ていた。
そして28分、ゴール前で神戸に圧力をかけられると、2トップの一角を担う古橋亨梧の強烈な一発を浴びる。さらに35分、自陣左から三田に会心のミドルシュートを決められて、あっという間に1-3。リージョ神戸の術中にまんまとハマることになった。