ひとりFBI ~Football Bureau of Investigation~BACK NUMBER
見せてもらおうか、J1王者の技を。
イニエスタを牛耳った川崎の連動。
text by
北條聡Satoshi Hojo
photograph byJ.LEAGUE
posted2019/05/14 10:30
イニエスタがいる。それだけで会場には高揚感が漂ったが、川崎がそれを打ち砕いたというのが痛快だったのだ。
だが憲剛と川崎は落ち着いていた。
それでも、43分に追撃の1点を決めて後半に折り返す。スローインの流れから敵陣右奥を鋭く突いた大島の折り返しを、家長昭博がワンタッチで流し込み、2-3。このあたりから好ゲームの予感が漂いはじめた。
後半に入ると、川崎は相手ボールのときの立ち位置を調整し、プレスの強度を高めていく。いや、それ以上にボールキープしながら敵陣深く押し込む本来のスタンスに立ち返った。それを、中村がこう振り返る。
「とにかく、落ち着いて、ていねいにやること。それが一番確実で、なおかつ速い。それをやり続けようと」
こうして川崎のボールがテンポよく回りはじめる。すると65分、鮮やかな速攻から同点ゴールが生まれた。自陣の深い位置から放った中村の縦パスから家長が鋭く反転し、一気に敵陣へ。最後はエリア内での1対1を制した齋藤学がゴール右隅にねじ込んだ。
美しすぎるパスワークから大島。
そして、わずか4分後にクライマックスがやって来る。超満員にふくれあがったスタジアムを揺るがす逆転ゴールだ。それもめくるめくようなパスの連続から生まれた。
ボックス右のエウシーニョから中央の家長へボールが渡ると、背後から走り込んだ大島へバックヒール。これを大島が間髪を入れず左前の小林に預けて前進し、目の前に転がってきたリターンを左足で突き刺した。
中村が「めったにお目にかかれない素晴らしい崩し」と褒め称えれば、小林も「自分たちの理想とするパスワーク」と胸を張った。逆にクールだったのが家長だ。
「あのゴールは練習でやっている形。それを試合でやっただけ」
それこそピンボールのようなパスワークは王者川崎の金看板。あのくらいで騒いでもらっちゃあ困るという自負だろうか。いや、それにしても、記憶のミュージアムにいつまでも飾っておきたいシロモノだった。
この珠玉の4点目が事実上のトドメだったが、そこで攻めの手を緩めないあたりがSっ気たっぷりの川崎らしい。76分にイケイケのエウシーニョがダメ押しの5点目。いかにもジャイアンらしく名勝負を締めくくった。