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<五輪ヒーローの成長譚>
北島康介「下町の少年がスターになるまで」
posted2019/05/07 08:00

text by

田坂友暁Tomoaki Tasaka
photograph by
Getty Images
ライバルとのつばぜり合い、世界記録との戦い。有言実行の魅力あふれる泳ぎで人々を惹きつけ、五輪によって競技の枠を越えた存在に成長した。本人と恩師の言葉で、栄光の足跡を振り返る。
北島康介は五輪の申し子だった。
泳ぎやメダルの色ばかりではない。「チョー気持ちいい」「なんもいえねぇ」という言葉でも人々を魅了し、水泳選手がプロとして生きる道も切り拓いた。競泳の枠に収まらない時代の寵児だった。
「僕はいわゆる“普通”の部分が非常に強い人間だと思っているんですよ」
平泳ぎで五輪史上初となる2大会連続の2冠という偉業。しかし、当時を振り返る北島は、自分自身について意外な見方を持っていた。
北島は東京都荒川区の西日暮里という下町風情を残した街で生まれ育った。正岡子規の歌にもある道灌山に続く通りに店を構える、肉のきたじま(現北島商店)が実家である。子供の頃から不思議と人が集まる中心にはいつも北島がいた。それは学校でも、5歳から通い始めた東京スイミングセンターでもそうだった。
幼少期から約20年、北島を指導し続けた平井伯昌はそんな少年に不思議な魅力を見出していた。才能と言ってもいい。
「あいつには水泳の友達ももちろんだけど、学校の友達もいるし、下町の商店街にいるから地域社会のつながりもある。当時の僕はそういうものが人間を育てるんだって思っていた。彼もそういう人間関係を大切にしてくれた。五輪選手になっても、金メダリストになっても、ずっと何も変わりない。根っこは下町の少年のままなんです」
こちらは雑誌『Number』の掲載記事です。
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