Number ExBACK NUMBER
今、ピッチで起きていることを優先せよ!
WOWOW社長が語るスポーツ中継の哲学。
posted2019/04/12 08:00
text by
生島淳Jun Ikushima
photograph by
Miki Fukano
私の周りで大いに話題になっている本がある。
『準備せよ。 スポーツ中継のフィロソフィー』
この本を書いたのは、WOWOWの代表取締役社長を務める田中晃氏。
もともと田中氏は、1987年に始まった日本テレビの箱根駅伝完全中継の初代総合ディレクターであり、1991年の世界陸上競技選手権東京大会、そしてナイター中継を「劇空間プロ野球」と題して大きくリニューアルしたスポーツ中継のプロフェッショナルだ。
その後、田中氏は『スカパー!』に移り、Jリーグの全試合完全中継や、パラスポーツの中継に力を注いだが、私は時折、田中氏がツイッターやブログで披露する「スポーツ中継批評」の大ファンだった。
私が日ごろ中継に対して感じていた不満の原因がどこにあるか解き明かしてくれたり、「なるほど」と勉強になることも多々あった。
今回の『準備せよ。』は、その集大成とでもいうべき著書で、アッという間に読了してしまった。
田中氏は、自分が携わってきた仕事の魅力をこう語る。
「スポーツ中継を担当するということは、本当に素晴らしい仕事なんです。世界中の視聴者は、ディレクターが見せたい映像を通じてその試合を目撃する。最高の中継をお見せするには、最善の準備をしなければならない。取材し、競技のことを徹底的に理解したうえで、テクノロジーを生かす。それでも、基本中の基本は、ライブを優先させることですけれども」
ディレクターは神様なんだ。
田中氏の見立てでは、世界のサッカー中継は2016年のUEFA EUROから大きく変化したという。
「2010年のサッカーW杯南アフリカ大会からは、不要なスロー再生や、観客席を映すことが増え、これが2014年の大会まで続き、全世界に悪影響を及ぼしました。ところが、2016年のUEFA EUROからはライブ優先になり、2018年のサッカーW杯ロシア大会も素晴らしい中継になった。それは、ジョン・ワッツというイギリス人が『いま、ピッチで起きていることを優先する』ことを徹底したからなんです」
ひとりのディレクターの考えで、中継は大きく変わる。だから、「ディレクターは神様なんだ」と田中氏は言い切る。