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坂本花織の進化を象徴する新フリー。
「圧がすごい」振付師の情熱の力。
posted2019/04/05 08:00
text by
松原孝臣Takaomi Matsubara
photograph by
AFLO
フィギュアスケートは、アートスポーツの面を持つ。結果にかかわらず魅せられることがあり、成績によらず、強い印象を観る者に残すことがある。
先月行われた世界選手権の男子で2位だった、羽生結弦のフリーの演技もしかり。
そして坂本花織の、完璧な滑りで2位になったショートプログラムもさることながら、フリー『ピアノ・レッスン』もまた、容易に消えない余韻を残すものだった。ジャンプの失敗があったことから最終的に5位に終わったものの、それにとどまらない強い印象を与えた。その演技は、シーズンを通した坂本の進化も示していた。
このプログラムを初めて披露したのは昨年7月6日、「ドリーム・オン・アイス」でのこと。滑り終えたあと、坂本は新たなプログラムへの抱負を語った。
「曲が去年(『アメリ』)に比べて大人っぽくなったし、もう18歳なので心も体も表現も大人っぽくできたらいいなと思います。最初は柔らかい感じですが、最後、すごく力強い演技になってくるので、そこがみどころだと思います」
氷を降りても練習は続く。
これまでのプログラムのテイストと比べて、チャレンジングな曲でもあった。
その事実は、シーズンが始まってからの言葉にも表れていた。グランプリシリーズ2戦目となったフィンランド大会を終えて、こうつぶやいた。
「ストーリー性を表すのが難しいんですよね」
内容をどう形として示すか。その難しさは、振り付けそのものにあった。
「(ルールが変わり)『ジャンプのあとのトランジションが大事』と言われました。やったことのない振り付けをして大変でした」
着氷後にそのままステップを入れるなど、つなぎは昨シーズンよりも高度になり、全体に動きは難解さを増した。練習では、ジャンプやスピンではない場面で転ぶこともあった。それでも時間をかけて習得していった。
「(昨シーズンの表現面の練習は)氷の上だけだったけど、オフアイスでも時間をかけてやってきました。ジャンプとかスピンの技術を1回忘れて、振り付けの部分だけ。手の振りとか」