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坂本花織の進化を象徴する新フリー。
「圧がすごい」振付師の情熱の力。
text by
松原孝臣Takaomi Matsubara
photograph byAFLO
posted2019/04/05 08:00
坂本花織は世界選手権のフリープログラムを終え、無念の表情をあらわにした。しかし、確かに進化は続いている。
「怖い人」だった振付師との出会い。
昨年12月に初優勝した全日本選手権、そして今回の世界選手権では、シーズン序盤の葛藤が嘘のような演技を見せた。
スピード感あふれるスケーティングでフェンス寸前まで氷上を自在に滑り、ダイナミックさと静寂な世界を表現し、壮大にプログラムの世界を示したのである。それを支えたのが、細かなところまで神経を張り巡らせた動作であった。
坂本の演技を振付けたのは、『アメリ』に続き、ブノワ・リショーである。
「怖い人だと思いました」
それが出会った当初の、リショーに対する印象だ。「恐れを抱くこともあった」と坂本を指導する中野園子コーチも言う。強烈な情熱に、ついていけなかったのだと当時を振り返る。
笑顔で話したリショーへの印象。
だが、その情熱がいつしか坂本を変えた。「世界一にさせたいんだ」と昨シーズンから坂本に語り続けてきたリショーは、決して妥協しない人だった。
シーズンが始まっても、ブラッシュアップを欠かさない。指先、目線、表情について何度も怒られた。世界選手権を前にした期間には、プログラムをパートごとに分けて、細かなところまで手直しを図った。坂本いわく、気づいたら「8時間に及んだ」日もあった。
そんな時間を過ごしてきて、はじめは怖い人だったリショーへの印象も変化してきた。
「ブノワ先生は圧がすごいというか、なんていうのかな、たしかにどう対応したらいいのか、最初はあまり分からなかったけど、だんだん分かるようになってきました。駄目なことは駄目ってすごい厳しく言ってくださるし、でもよかったときもしっかり言ってくれるんです」
と、笑顔で語る。
曲の構成をはじめ、何を伝えたいかについての確固としたイメージを作り上げ、その上で何段階もジャンプアップする必要がある高いレベルを求めたプログラムは、振付師の重要性を物語るものであった。
そして全てが、それに応えた坂本あればこそ、であるのは言うまでもない。