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「東京マラソンでサブスリー」への道。
レースこそ最高の練習だ! 

text by

柳橋閑

柳橋閑Kan Yanagibashi

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photograph byKan Yanagihashi

posted2019/03/22 08:00

「東京マラソンでサブスリー」への道。レースこそ最高の練習だ!<Number Web> photograph by Kan Yanagihashi

東京マラソンのコースを試走した時のワンカット。東京の名所を巡るコースは、写真映えも素晴らしい!?

中1週で本番に臨む奇策。

 本来なら、そのあとは調整期に入り、ジタバタすべきではない。ただ、それは目標と走力が見合っている場合のやり方だ。今回は持ち合わせの走力以上の壁に挑戦しなければならない。そのために最後まで悪あがきをしようと決めていた。

 ポイントは2月24日の静岡マラソン。それを40km走として走り、中1週間で東京マラソンに臨むという奇策をとることにした。単純に毎年、静岡マラソンに出ているということもあったが、小出監督が著書の中で2週連続フルマラソンの効用を説いていたことも理由のひとつだ。

 実際、高橋尚子さんがベルリンマラソンで当時の世界記録を出したとき、翌週はシカゴマラソンに出場する予定だったのだという。関係者の反対で実現しなかったが、出ていたら記録をさらに1~2分縮めていただろうというのが小出監督の見立てだ。普通に考えたらありえないやり方だろうが、好奇心をそそられた。スピードはないが持久力はある自分に向いた作戦のようにも思える。

 ただ、別大の直後から身のまわりにいろいろな問題が起きた。まずはレースを終えた晩から熱が出た。これだけ走っていれば免疫も落ちるだろうし、どこかで一度くらいは風邪も引くだろうと考えていたので、これは想定の範囲内だ。いい休息になるだろうと前向きに考えることにした。

母親が倒れるという想定外の事態。

 でも、翌週、母親が心不全で倒れたのは想定外だった。こちらが自分の心臓を強化しようと四苦八苦している間に、親もまた心臓の問題で苦しんでいたことになる。医師によると「この心臓で日常生活をおくっていたのが信じられない」というほど悪い状態だったらしい。

 よくマラソンや駅伝のテレビ放送で、アナウンサーが「この選手は病気の家族のため、亡くなった家族のために走っています」という話をすることがあるが、まさか自分にそういう状況が訪れるとは思ってもみなかった。ただし、こちらはあくまでも市民ランナー。マラソンは趣味にすぎず、命や家族の問題より優先されるべきじゃない。

 では、ここで挑戦を打ち切るべきかというと、それも違うように思えた。ずっと病院にいても何ができるわけでもない。自分には走る時間も、走れる心臓もある。

 さまざまな思考と不安が頭を支配し、平常心を保てなくなったのは事実だ。でも、そんなときこそ体を動かし続けることが大切だということは、経験から分かっていた。そこで病院までの往復27kmの道のりをLSD(ロング・スロー・ディスタンス。長くゆっくり距離を踏む練習)や、自転車での回復トレーニングにあてることにした。「マラソンばかもたいがいにしろ」という話だが、振り返ってみると、それで心身の平衡を保っていたのかもしれない。

 結果的に、母は9時間の手術を乗り越えて生還した。その姿を見ていて、自分の中にある根性と、肉体の耐久力がどこから来ているかを、あらためて知ることになった。

4カ月、やれるだけのことはやった。

 静岡マラソンでは、体に疲労を残しすぎないように、前半はペースを抑え、後半に上げるネガティブ・スプリットにトライした。ところが、後半ペースアップをした矢先に海岸線の向かい風に押し戻されて減速。前半ハーフを1時間33分12秒とゆっくりめに入ったにもかかわらず、後半はそれよりさらに1分28秒遅れて1時間34分40秒かかってしまった。フィニッシュタイムはネットで3時間7分52秒。タイム的にはセカンドベストでうれしいはずなのだが、「3時間」という目標と、やろうとしていたネガティブ・スプリットができなかったために、達成感がかき消されてしまった。つらいところである。

 結果的な走行距離は11月の316kmから始まって、12月は391km、1月は460km、2月は342kmと積み上げてきた。これほど集中して強度の高い練習に取り組んだのは初めてのことだ。スピードも持久力も課題は残ったが、ランナーとして少しは成長できたように思う。結果はともかく、一世一代のレースをしてやろうと、4カ月間やれるだけのことはやってきた。勝負のときは1週間後に迫っていた──。

(「東京マラソンでサブスリーへの道」、NumberWebでの連載はこれで終わります。東京マラソンの模様と挑戦の結果は、雑誌「NumberDo」2019年3月22日発売号でお読みいただけます)

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