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「東京マラソンでサブスリー」への道。
レースこそ最高の練習だ! 

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柳橋閑

柳橋閑Kan Yanagibashi

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photograph byKan Yanagihashi

posted2019/03/22 08:00

「東京マラソンでサブスリー」への道。レースこそ最高の練習だ!<Number Web> photograph by Kan Yanagihashi

東京マラソンのコースを試走した時のワンカット。東京の名所を巡るコースは、写真映えも素晴らしい!?

苦しむ準備ができていれば耐えられる。

 2月3日には別府大分毎日マラソン、通称「別大」に出走した。伝統と格式のある大会で、エリートランナーにとってはMGC(マラソングランドチャンピオンシップ)の選考レースでもある。大会全体に、「市民マラソン」ではなく「陸上競技」の雰囲気が漂い、いい意味で緊張感がある。

 体の仕上がりは読み切れなかったが、少なくとも過去にない密度の練習を積んできたのは間違いない。5年前の自己ベスト3時間8分38秒(ネット)を超えようと決意して現地に入った。

 スタート前、結果のことを考えると、手にじわりと汗をかいた。しかし、走る前から結果のことを考えても仕方がない。大事なのはプロセスであり、ペースメイクだ。やるべきことは練習のタイムトライアルと変わらない──そう考えて心を鎮める。

 12時、スタートを告げる号砲が鳴る。序盤の下りを活かして、早々に4分15秒ペースにギアを入れ巡航状態に入った。心拍数は150bpm以下に落ちついている。「やるぞ」と奮い立つ自分と、「慎重にいけ」と言う自分がせめぎ合う。しばしの葛藤のあと、あまり考えすぎず、フォームに集中しようと決める。

 10kmの折り返しで苦しさの第一波がやって来た。ペースが4分20秒台に落ちる。後半に備えてこのまま抑えるか、早めにギアを上げ直すか? 一瞬の躊躇のあと、アクセルを踏み込むことにした。

 前の晩にNHKで放送していた「奇跡のレッスン」でイタリア人の陸上コーチ、レナート・カノーバさんが語っていた言葉を思い出す。「苦しむ準備ができていれば、苦しみには耐えられる。自分が向き合うことになる苦しみを楽しむ覚悟を決めるんだ。苦しみに向き合えば、自分の力を知ることができる。それに打ち克つことで強くなることができるんだ。だから、自分から苦しみを求めよう。結果はそのあとについてくる」。

自己ベストを大幅に更新するタイム。

 ハーフ前後で脳内ホルモンが出て、集中力が高まってくるのが分かる。去年も別大では“ゾーン”に入る感覚があった。重いはずの脚が軽くなり、呼吸の苦しさも気にならなくなるのだ。

 きっと外から見ると、それまでと変わらずドテドテ走っているのだろうが、本人の中では飛んでいるような感覚になる。それほど長くは続かず、10分か15分後には苦しい現実に戻るのだが、今回はその苦しみも楽しもうという覚悟ができていた。

 練習のいろんな場面が頭をよぎる。いっしょに走った仲間の顔も思い浮かんでくる。そのおかげか、30km前後、38km前後でも再びゾーンに入る感覚があり、失速から持ち直すことができた。

 大分市営陸上競技場が見えてきたところで、力を振り絞ってラストスパート。フィニッシュタイムは3時間05分59秒(ネット3時間05分25秒)。ネットで自己ベストを3分13秒更新することとなった。素直にうれしかったし、5年間の呪縛から解放された安堵感もあった。ただ、いま立っているのは3時間をめざす道の途中にすぎないという思いもあった。

 5kmごとのスプリットタイムを見ると、21:17、21:34、21:47、22:05、21:27、22:03、22:40、22:52と推移している。目標の21分15秒には1区間も到達せず、3時間は相変わらず高い壁のままだった。

 ただ、評価できる面もあった。前半のハーフが1時間31分26秒だったのに対して、後半は1時間33分59秒。タイムのタレを2分33秒に押さえ込むことができた。「スピードが足りないぶんを持久力でカバーする」という戦略に少しだけ光明が射してきた。

 ひとつだけ確かなのは、「もう中年だから」と端から諦めるのではなく、本気でやれば、その過程で何かを掴めるということだ。薄皮一枚ずつかもしれないが、やりようによってはまだ成長することはできるのだ

【次ページ】 中1週で本番に臨む奇策。

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柳橋閑

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