テニスPRESSBACK NUMBER
錦織圭対カレノブスタ、極上の陶酔。
年に数試合しかない最高のテニス。
posted2019/01/22 17:30
text by
秋山英宏Hidehiro Akiyama
photograph by
AFLO
四大大会では、1大会に2つか3つ、とんでもない試合がある。選手の心技体ががっちり噛み合い、格闘技のようなラリーが続く、いつ果てるとも知れぬ死闘だ。
ある選手は黙々と、ある選手は喜怒哀楽をあらわすが、どちらもゾーンに入っている。なぜ、これほど強く自分を信じられるのか、その境地に達したことのない常人には到底理解不能な、ある種の陶酔状態でプレーしている。そんな試合だ。
われわれ取材者でも、そんな試合を生で見る機会は多くない。登場人物はビッグネームとは限らない。舞台もセンターコートとは限らず、大会のクライマックスよりむしろ序盤や中盤にそんな試合が現出する。めったにないことだから、そんな試合にはやすやすとお目にかかれない。
激戦は静かにはじまった。
幸運にも、そんな試合に出会えた。しかも一方の主役は日本選手。男子シングルス第8シードの錦織圭と同第23シード、パブロ・カレノブスタ(スペイン)の4回戦だった。
最初は凡戦だった。錦織には序盤の逸機が痛かった。第1セットは第3ゲームと第5ゲームに相手サーブをブレークしたが、いずれも直後にブレークバックされた。錦織は正直に「もしも」を口にした。
「大事なポイントでうまくいっていれば、6-3か6-2くらいで(このセットを)勝てていたと思う」
うまくいかなかったのは、必ずしも絶好調ではなかったからだろう。肩の力を抜き、リラックスを心がけているように見えたが、錦織は「焦りもあったのかな」とも明かした。
立ち上がりに主導権を握れず、第2セットは序盤にブレークを許した。懸命に追いかけたが、ブレークポイントを生かせない。日本人の観客が多く詰めかけたマーガレットコート・アリーナに沈滞ムードが立ちこめた。まだ第2セットだったが、錦織自身に落胆の色が見えれば、巻き返しの難しさをファンも察知しただろう。