錦織圭、頂への挑戦BACK NUMBER
「一番キツい時にジョコビッチ」を
避けるため、錦織圭に必要なこと。
posted2019/01/24 17:00
text by
山口奈緒美Naomi Yamaguchi
photograph by
AFLO
ロッド・レーバー・アリーナの熱気はさほど高まらないまま、1万5000の観客は蓄えていたエネルギーの行き場を失った。どれほどの人が、錦織圭のここまでの戦いを知っていただろう。知っている者には、あまりにもわかりやすい結末。根拠なく漠然と期待した意外な進展を見ることはなかった。
試合開始から52分。昨シーズン末に王者に返り咲いたノバク・ジョコビッチへの挑戦は、錦織の途中棄権という最悪のかたちで幕を下ろした。
第1セットの第4ゲームのサービスゲームのときに右太ももに痛みが走ったという。第1セット後にメディカルタイムアウトをとって治療を試みたが、その後も動きは鈍くなる一方で、第2セット2度目のブレークを許して1-4とされたところで、キャップを脱いで勝負をあきらめた。
今大会で評価をいっそう高めたファイナルセットでの強さも、タイブレークでの集中力の高さも、数で誰よりも勝っていた痛快なリターンエースも、何も錦織らしさを発揮することなく……。
「相手がジョコビッチでなくても、誰が相手でもあの状態では勝てなかったと思います」
試合後、俯き加減にそう話した。
ナダルより5時間以上長かった。
1回戦から4回戦までの中で、フルセットにもつれた試合が3つ。うち2試合の最終セットは10ポイント・タイブレークの消耗戦だった。試合時間の合計は13時間47分に及んだ。錦織同様にベスト8に勝ち進んだ他の7人の中では、ラファエル・ナダルが8時間38分と最短で、ジョコビッチが9時間44分。錦織との疲労の差は容易に想像できた。
錦織自身の経験の中でも、グランドスラムでベスト8以上に進んだ10回の中でも、4回戦までに要した合計試合時間としては今回が最長だった。
準々決勝を突破した3回(2014年、2016年、2018年の全米オープン)は全て、今回のナダルやジョコビッチ同様に10時間以下に抑えている。
今さら言うことでもないが、2週間のグランドスラムを勝ち抜くカギは、1週目を極力省エネで戦うことだ。特にスタミナ面での課題を指摘され続けてきた錦織の場合はそれが肝だろう。5セットを勝ち抜くスタミナはあっても、それを何度も克服しながら2週間体を持ち堪えさせることはできない。