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大きくて優しい守護神チェフ引退。
プレミア16年目、最後に栄光を。 

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山中忍

山中忍Shinobu Yamanaka

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photograph byGetty Images

posted2019/01/19 11:00

大きくて優しい守護神チェフ引退。プレミア16年目、最後に栄光を。<Number Web> photograph by Getty Images

大ケガ以降、ヘッドギアが代名詞となったチェフ。2000~2010年代を代表する守護神だった。

CL制覇時にビッグセーブ連発。

 チェルシーの長身GKにはエド・デフーイというオランダ人もいた。だが、集中力も極めて高いチェフのゴールマウス掌握能力はレベルが違っていた。

 196cm、90kgの新GKが見せる鋭い反応やアクロバティックなセーブは、身長180cm台だが俊敏さを売りにしたイタリア人GK、カルロ・クディチーニも顔負けで、クディチーニ自身もその力を認めざるを得なかったはず。

 その証拠に、チェルシーが半世紀ぶりのリーグ優勝を決めた2005年4月のボルトン戦(2-0)では、試合後にチェフの背中に飛び乗って喜びを分かち合うクディチーニの姿が、印象的なシーンとして記憶に残っている。

 チェフのハイライトとして、2011-12シーズンのCLが挙げられる。決勝バイエルン戦で延長戦でのPKストップとPK戦でのセーブで、悲願の欧州制覇に導いた姿を浮かべる人も多いに違いない。

 だが実際には、準決勝でバルサ相手にチェフの計52本のセーブがあったからこその決勝進出だった。特に合計3-2でバルセロナを下した準決勝。第1レグ(1-0)ではカルレス・プジョルがフルタイム間際に放ったヘディングを横っ飛びセーブ。

 第2レグ(2-2)では、リオネル・メッシのシュート軌道をポストへと微妙に変え、ハビエル・マスチェラーノのシュートを弾き出した。チェフの指先と手の平が、実に1時間近く10人で耐えなければならなかったチームを敗戦から救った。

「毎試合5-4だって構わない」

 同シーズンのチェルシーは、執念のCL優勝により翌シーズンも欧州エリートの集いに参戦する資格を手にした。30代前半だったアンドレ・ビラスボアスの抜擢が失敗に終わり、例年になく守備が不安定だったチームにあって、相変わらずの信頼度だったチェフのセーブがなければ、リーグ順位は6位への転落どころではすまなかっただろう。

 計170を越えたセーブには、11月ブラックバーン戦(1-0)での気迫の5本も含まれる。前半早々に鼻を折る不運に見舞われたが、綿でふさがれた鼻から喉へと流れる血を飲み込みながら、無失点でフルタイムを終えてチームの勝利に貢献した。

 いかなる状況下でも、無失点を「チームメイトたちのおかげ」と説明するのもチェフの特徴だった。とことん、何よりチームありきの守護神なのだ。

 2012年のクラブ・ワールドカップでの日本遠征を前にインタビューに応じてくれた際、無失点へのこだわりを訊くと、「0-0で終わるなら5-4の方がいい。GKとして4失点は不本意でもチームは3ポイントを獲得する。毎試合5-4だって構わないさ」との返答だった。

【次ページ】 何事にも誠意をもって仕事。

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