プレミアリーグの時間BACK NUMBER
大きくて優しい守護神チェフ引退。
プレミア16年目、最後に栄光を。
text by
山中忍Shinobu Yamanaka
photograph byGetty Images
posted2019/01/19 11:00
大ケガ以降、ヘッドギアが代名詞となったチェフ。2000~2010年代を代表する守護神だった。
何事にも誠意をもって仕事。
言うまでもなく、チームの一員としての取り組みも見本的。今回の引退発表を受けて、古巣のチェルシーに、クラブ親善大使やアカデミー指導者として再びチェフを招く用意があるとされているのも、レジェンドとしてのステータスに加えて、何事にも誠意を持って仕事に当たるキャラクターがあってのことだろう。
与えられる対戦相手の情報に関してもそうだ。当人が「意外に多いんだよ」と言っていたが、「ゴール前への侵入経路、狙ってくるスペース、フィニッシュやセットプレーのパターン、PKでの癖など把握するには結構時間がいるけど、試合の相手がどこで、それがリーグ戦でもカップ戦でも、抜かりなく準備をして試合に備えるのが基本」とのこと。
そして「ソファに座って渡された資料に目を通せばいいだけだから、データを編集してくれるチームスタッフに感謝はしても文句なんて言えないよね」と続けたのも彼らしかった。
優しい巨人とヘッドギア。
ちなみに取材の際、チェフはチェルシーのトレーニングセンターのメディアスペースで、椅子ではなくテーブルに腰を下ろして喋っていた。ドアの向こうでは、チーム練習の指導を終えたばかりのラファエル・ベニテス暫定監督(当時)の記者会見が進行中。
プレミア選手のインタビューは、練習後のシャワーとランチはもちろん、マッサージやヨガなどのセッションが終わるまで待たされるケースもあるが、チェフは練習着のまますぐに現れてくれたため、逆に会見スペースが使えなかった。
ドアの手前には小さなテーブルと椅子が1組しかない。「どうぞ」と椅子を引いた筆者に「座っていいよ」と言い、テーブルに腰を下ろした“ビッグ・ピート”は筆者を見下ろす体勢になったこともあり、余計に「優しい巨人」に思えた。
チェフと言えば、チェルシー3年目の試合中に負った頭蓋骨陥没骨折後から着用しているヘッドギアも、クリーンシートと並ぶトレードマークだ。あの大怪我から3カ月足らずで復帰した本人は、「接触プレーを怖いと感じたら、それが引退の潮時だ」と語っていた。あれから13年、実際に引退の引き金となったのは恐怖心ではなく、達成感からだ。