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吉田沙保里は神様で、お姉ちゃん。
登坂絵莉ら後輩から慕われた理由。 

text by

松原孝臣

松原孝臣Takaomi Matsubara

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photograph byAsami Enomoto

posted2019/01/14 17:00

吉田沙保里は神様で、お姉ちゃん。登坂絵莉ら後輩から慕われた理由。<Number Web> photograph by Asami Enomoto

1月10日、都内で行なった会見では涙を見せることなく笑顔で引退を表明した。

登坂、川井にとって心の拠り所。

 リオデジャネイロ五輪48kg級金メダリスト、登坂絵莉は大先輩のことをこう表現した。

「偉大な選手で、自分にとっては神様みたいな存在なんですけど、お姉ちゃんみたいな存在でもあります」

 リオ代表の内定がかかり、緊張に苛まれていた2015年の世界選手権では、「どんとかまえていなさい」と吉田自身の試合があるのを忘れているかのように、アドバイスを送り続けてくれたと振り返る。

 レスリングばかりではない。

「何でも話します。レスリング以外も、全然、話します。ほんとうに何でも話せるんです。あんなにすごい選手なのに」

 至学館の後輩である川井梨紗子は私生活の面でも支えになっていると振り返る。リオでは吉田と同じ日に試合があり、銀メダルに涙を流した吉田と対照的に、川井は金メダルを手にした。

 喜ぶことにためらいもあった川井に対し、吉田は「おめでとう。思いっきり喜んで」と言葉をかけて祝福していたと、ある指導者が話していた。

周囲の人の存在を忘れずに。

 彼女たちの話はほんの一例にすぎない。

 選手たちの言葉から浮かび上がるのは、一致して、チームメイトや後輩を思う心であり、気配りだ。練習の合間、あるいは大きな大会で吉田自身が試合を控えていてもだ。リオで金メダルを獲得したあと、土性沙羅らが吉田に感謝の言葉を述べたのも、共通する。

 自分が戦い、勝つことを考えるばかりでなく、周囲の人たちを忘れることはなかった。リオ五輪では日本選手団の主将として、他競技の選手たちも引っ張っていったことは記憶にしっかりと刻まれている。

 それもまた、吉田の一面を示しているし、吉田がレスリング界で尊敬されてきた理由の1つがそこにあるだろう。

 今、吉田は現役選手としてはマットに別れを告げた。だが、吉田の抱負にもあるように、来年の大舞台ではまだまだその存在は必要とされている。

 記者会見で、さまざまな角度から飛んでくる質問に堂々、礼儀正しく答える。そしてお世話になった人たちに頭を下げる。その姿勢は後輩たちの言葉とともに、心を打つものだった。

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