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成長するため、あえて立ち止まる。
巨人・菅野智之、真のエースへの道。 

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鷲田康

鷲田康Yasushi Washida

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photograph byKyodo News

posted2019/01/03 11:30

成長するため、あえて立ち止まる。巨人・菅野智之、真のエースへの道。<Number Web> photograph by Kyodo News

本当のエースになるためにも20勝したい――6億5千万円で契約更改した菅野智之は、来季への抱負を語った。

「持っているボールの質に磨きをかけること」

 シュートを曲げようと思えば、肘が下がるし、それがいままでの勝負球に及ぼす影響も少なからずある。フォークだって多投すれば握力が落ちて真っ直ぐのキレが落ちる。何より新しいボールを覚えることで、それまで持っていた他のボールの繊細な感覚に、ズレが生まれるきっかけになることがあるのだ。

「桑田くらいのレベルに達した投手が新しいボールを覚えなければならないのは、晩年にさしかかって力が落ちてきたときなんだ。

 そのときのためにいまは、持っているボールの質に磨きをかけることが一番のテーマ。それをやることが、実はこの時期の本当の進化ということになるんだよ」

 これが藤田さんの結論だった。

 もちろん現状で相手打者を抑えるのに四苦八苦している投手にとっては、新球習得はオフの重要なテーマである。しかし、高いレベルの投手にとって新球の習得とは、逆に一流だからこそ陥るパラドックスを生むきっかけになってしまうということなのだ。

 2018年の開幕の菅野もまた、そのパラドックスの餌食となっていたのである。

 ただ、菅野がスマートなのは、その落とし穴に気づき、そしてせっかく覚えたシンカーを捨てる決断がすぐにできたことだった。

「長い人生で必ずこういう時は来ると」

 4月13日の3度目の登板は東京ドームの広島戦だった。

「長い人生で必ずこういう時は来ると思っていた。自分の力で打開しようと、強く思ってマウンドに立ちました」

 こう語った菅野は、この試合で1球もシンカーを投げなかった。その代わりにシンカーを覚える過程で抜き方をつかんだフォークを駆使して、赤ヘル打線を封じ込んだ。

 8回6安打10奪三振で1失点。

 2018年の初勝利はそういう葛藤を乗り越えた末に手にしたものだった。そうしてその先にあった栄光は、もはや多くを語る必要はないだろう。

 2018年は10完投で8完封。8完封は1978年の近鉄・鈴木啓示以来、巨人では1963年の伊藤芳明以来で、9月から10月にかけてはシーズン終盤に中5日、中5日の過密登板の中で3試合連続完封の離れ業も演じている。

 絶対エース――まさにこの言葉がふさわしい傑出した投手となり、年俸がゴジラ越えの6億5000万円まで跳ね上がったのも納得の評価だった。

【次ページ】 “菅野時代”がまだ続くことを確信。

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