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成長するため、あえて立ち止まる。
巨人・菅野智之、真のエースへの道。
text by
鷲田康Yasushi Washida
photograph byKyodo News
posted2019/01/03 11:30
本当のエースになるためにも20勝したい――6億5千万円で契約更改した菅野智之は、来季への抱負を語った。
「速いシンカーで球速差を出したい」
菅野はそれまでも、シュート系のボールとしてはツーシームの握りを少し変えたワンシームを投げてきた。
「でもワンシームは変化球じゃない。まっすぐと同じ(球速)なので、速いシンカーで球速差を出したい」
2016年のオフには2017年3月に開催されるワールド・ベースボール・クラシックを睨んでチェンジアップに挑戦したように、毎年、オフにはより高みを目指して新球の習得を課題にするようになっていたのである。
ただ実は、これはトップレベルの投手が陥りがちな落とし穴だ、と語っていたのは巨人の藤田元司元監督だった。
藤田さんが監督時代のエースだった桑田真澄投手も、若い頃から進化を求めてシュートやSFF(スプリット・フィンガー・ファストボール)など次々と新しい球種を習得したがる投手だった。
だが、藤田さんはそんな桑田の挑戦に敢えて首を振ってこう語っていた。
「新しいボールを覚えることは決して悪いことじゃないし、桑田ならそれほど苦労しないでも覚えることができるかもしれない。でも、桑田くらいのレベルの投手になれば、逆にいま持っているボールだけで十分に相手のバッターを抑えられるんだよ」
新しい球種を得て、逆に失うものもある。
実際に桑田はキレのあるストレートとカーブを主体に、その頃にはフォークやスライダーも操っていた。それだけのレベルの高い球種を持っていれば、相手打者を牛耳るためのカードとしては十二分だというわけだ。
それでも一流だからこそ、向上心が強く、そこでさらに進化を求めてしまう。そこに落とし穴があると藤田さんは言うのだ。
「投手っていうのは不安で、次から次に新しいものを習得しないと気が済まないけど、逆にそれによって失うものもある」