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酒井宏樹がベルギー戦後に語った、
W杯での涙と「次へ行く理由」。
text by
二宮寿朗Toshio Ninomiya
photograph byTakuya Sugiyama/JMPA
posted2019/01/06 08:00
マルセイユでリーグアン屈指のサイドバックとなった酒井宏樹。アジア杯でもその経験値を生かしてほしい。
デブライネらを封じ込めろ。
日本の右サイドが生命線だった。
前半を無失点で切り抜け、粘り強い守備を展開できていた。シャドーにE・アザール、その下にデブライネ、アウトサイドにはカラスコ。強力な相手の左サイドを、連係によって封じ込めた。
相手の間に味方が入る「ベルギーからしたらパスを出せるんだけど、出したらプレッシャーを受けるんだろうなという位置取り」を徹底。原口元気、柴崎岳、そして吉田麻也と常に声を掛け合いながら、その任務を遂行した。
ただ、守ってばかりでは勝てない。守備に全力を注ぐ右サイドの相棒、原口には「攻撃のために力を残しておいてくれ」と伝えていた。そして「最後のところは俺らが責任を持つから」とも。臨機応変のコミュニケーションが、日本にリードをもたらした。
ペナルティーエリア手前までアザールに突っ掛けられても、パスがカラスコに渡った途端にスライドしてシュートをブロックする酒井がいた。最後をやらせない粘り腰は沈着冷静がもたらしたものだった。
「僕、順位づけするんですよ。(失点の)確率が高いのはアザールの右足が一番で、次にクロスの左足。その次にカラスコの右足と。注意する順番をつけて守りました」
ベルギーは全然落ち着いていた。
守備のタスクをこなしながら、ピッチ上で思わず天を仰いだのが、3点目を狙って右サイド深くから大迫勇也にクロスを送ったシーンである。
「サコの左足じゃなくて、右足に上げていれば(試合は)決まっていたと思います。まあクルトワがうまかったんですけど……あれが決まっていれば(ベルギーの)息の根を止められたんじゃないかって」
このとき、酒井はあることを感じ取っていた。2点ビハインドでも、ベルギーが浮き足立っていないことを。
「アザールからファウルを受けて、倒れるじゃないですか。0-2の展開だったら、普通“早く立て”となるはずなんですけど、“大丈夫だろ”って笑いながら手を差し伸べてきたんです」
酒井の、いや日本の沈着冷静を、ベルギーもまた失ってはいなかった。