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酒井宏樹がベルギー戦後に語った、
W杯での涙と「次へ行く理由」。
text by
二宮寿朗Toshio Ninomiya
photograph byTakuya Sugiyama/JMPA
posted2019/01/06 08:00
マルセイユでリーグアン屈指のサイドバックとなった酒井宏樹。アジア杯でもその経験値を生かしてほしい。
心の支えは岡崎慎司。
心の支えになったのが同じくケガから復帰に取り組む、32歳のベテラン、岡崎慎司の姿だった。
「ケガのレベルで言えば、僕よりもオカさんのほうが厳しかったはず。それでも明るく、前向きに振る舞っていて、僕も耐えなきゃいけない、頑張らなきゃいけないって思うことができました」
約束どおり、コロンビア戦に間に合わせた100%の酒井宏樹がそこにいた。
右サイドを死守し、90分フル出場して勝利に貢献した。そして彼の名を引き上げたのがアフリカのビッグネーム、サディオ・マネを迎え撃ったセネガル戦である。
開始2分、左サイドのクロスが逆サイドのマネまで抜けてきたものの、密着マークで防ぎ切った。ここで先制パンチを食らっていれば、勢いづかせてしまったかもしれない。結局、マネに1点を奪われたとはいえ、それ以上に仕事をさせなかった。空中戦にも負けなかった。
マルセイユからの援護射撃。
それはマルセイユでの守備だった。
「逆サイドから上がってくる人には必ずついて、離しちゃいけない。これはチームでやっていること。マネは(対面だった)コロンビアのイスキエルドと違って、裏を取る動きがなかった。足もとで受けたがるので、スピードに乗る前に封鎖することができました。フランスリーグにはマネのようなタイプが多いので慣れていたんです」
実は所属するマルセイユからもバックアップを受けていた。対戦相手の情報を把握できるアプリがある。分析担当が「ヒロキのために」とわざわざワールドカップバージョンとして対戦相手の特徴を集めてくれていたのだ。マルセイユではネイマールを食い止めるなど自分の力で地位を築いていった。ハノーファーから移籍金ゼロで「拾われた」身。しかしここでの2シーズンが、脱皮に向かわせた。