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ついに訪れた「羽生善治九段」。
なぜ彼の存在は将棋の枠を超えるか。

posted2018/12/21 20:00

 
ついに訪れた「羽生善治九段」。なぜ彼の存在は将棋の枠を超えるか。<Number Web> photograph by Kyodo News

タイトルのあるなしに関わらず、将棋界の顔は今も羽生善治である。

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茂野聡士

茂野聡士Satoshi Shigeno

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「羽生善治九段」。ついにこの表記をする時がやってきてしまったのか。

 12月20、21日に開催された竜王戦第七局。羽生善治竜王は広瀬章人八段相手に、最後の最後まで粘りを見せたが敗北。3勝4敗で防衛を果たせなかった。この結果、27年間にわたって1つ以上保持していたタイトルをすべて失うことになった。

 2018年は2月に朝日杯オープン戦で藤井聡太七段(当時は五段)と公式戦で初対局して敗れたことがビッグニュースとなり、6月から7月の棋聖戦では豊島将之八段(現二冠)とのフルセットの熱戦も2勝3敗で失冠した。

 そして今回の竜王戦でも、31歳の広瀬八段との第6局で史上初の2日目の昼食休憩前の投了となるなど、10~30代前半の棋士が実力をつけている中で、世代交代の波と戦い続けている。

将棋という枠組みを超えて。

 しかし羽生前竜王はいまだにトップ棋士の1人である。48歳となった今期もそうだ。それは通算26期目となる「順位戦」頂点のA級でここまで5勝1敗の好成績で、そのほかのタイトル戦も常連として戦っていることからも明らかだろう。そして盤外でも「将棋界の顔」として、普及活動に誰よりも熱心だ。

 そもそも“無冠”が1991年以来で、史上初の七冠制覇、永世七冠、そして今回の通算タイトル100期挑戦である。これまで積み上げてきた実績は説明するまでもない。

 何よりも羽生前竜王は「将棋がものすごく強い人」にとどまらない、将棋という競技の枠組みを超えて人々が関心を寄せる存在である。

 その源は目の前の勝敗にとらわれない、超然とした言葉にあるのでは、と思う。

【次ページ】 棋聖戦で敗れた直後に。

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