eスポーツは黒船となるかBACK NUMBER
eスポーツは「有望な新市場」ですか?
お金の話ばかりが話題になる違和感。
posted2018/11/15 08:00
text by
八木葱Negi Yagi
photograph by
2018 Riot Games, Inc. All Rights Reserved
eスポーツという言葉を、一般のニュースでもよく見かけるようになった。
だいたい、こんなキーワードと一緒に登場していることが多い。
賞金28億円、トップ選手の年俸は1億円超え、世界の競技人口は1億人、大企業や有名アスリートがスポンサーとして参入……などなど。
これらは要するに「お金」の話である。もう少し正確に言えば、「市場規模」についての情報を示す言葉たちだ。
ゲームの楽しさや選手の個性という話を飛ばしてお金の話ばかりが広がっていく現状は、eスポーツを取材する人間としても1プレーヤーとしてもお腹いっぱいだと感じている。
思い起こせばeスポーツという言葉への反応は、ゲームメディアを除けば経済メディアがもっとも早かった。それはつまりeスポーツという「新興市場」が成長しており、ビジネスチャンスがありそうな業界だ、という文脈でニュースバリューを持ったからだろう。
しかしちょっと考えてほしいのは、たとえば野球やサッカーの魅力を人に伝える時に「マイク・トラウトの年俸が37億円」や「レアル・マドリーの胸スポンサーがエミレーツ航空」という表現をするだろうか。
しない、と思う。それは野球やサッカーは市場である以前にスポーツとしての価値が認められているからだ。あまりにナイーブだと言われるかもしれないが、本来スポーツでもショーでも、それを体験した人たちが感じる価値が先にあって、結果として市場価値というのは出てくるものだろう。
もっと楽しい話をしていたい。
もちろんスポーツは生活必需品ではなくエンターテインメントで、ファンの愛をお金に替える産業だという側面は確かにある。選手や大会運営者が収益を伸ばす方法を血眼になって考えるのは当然だし、必要なことだ。選手の待遇や未来への投資のためにも、お金がなければ話にならない。
しかしだからと言って「より上手く、より効率的に愛を換金しましょう!」と大声でいうことがいいことだとも思えない。何より、実際にお金を払うファンの気分を害することは目に見えている。
ファンの耳にまでお金の話ばかりが聞こえてくる現状が続けば、肝心の愛の形成が邪魔されると思うのは心配しすぎだろうか。
せっかくのエンターテインメントなのだから、「ビジネスモデルをどう構築するか」という話よりも、「ムバッペのドリブルが速すぎる」「大谷のホームランあれどうなってるの?」という話が溢れている方が楽しいと思う。
eスポーツで言えば、「ときどの豪鬼は動きがおかしい」とか「Fakerは未来が見えてる」とか、そんな話をもっとしていたいのだ。