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ついに訪れた「羽生善治九段」。
なぜ彼の存在は将棋の枠を超えるか。 

text by

茂野聡士

茂野聡士Satoshi Shigeno

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photograph byKyodo News

posted2018/12/21 20:00

ついに訪れた「羽生善治九段」。なぜ彼の存在は将棋の枠を超えるか。<Number Web> photograph by Kyodo News

タイトルのあるなしに関わらず、将棋界の顔は今も羽生善治である。

棋聖戦で敗れた直後に。

 例えば、前述した棋聖戦第5局直後、通算100期達成とならなかったことについて問われた際のこと。

「また次の機会というか、その舞台を目指してやっていけたらなと思っています」

 こう話していた。文字にすると非常に平易だが、次のタイトルを目指す意欲を自然と語れるのは、長年にわたってタイトル戦という修羅場を戦い続けたからこそなのだろう。

 また自身の名前が冠づけられた「AbemaTVトーナメント Inspired by 羽生善治」が2018年から始まった。その際のコメントも味わい深かった。

 これは羽生前竜王の趣味(と言っても日本有数の実力なのは有名な話だが)であるチェスのフィッシャールールから着想を得たもので、いわば羽生前竜王発案の早指し戦である。

若手との対局を「楽しむ」。

 そんな中で羽生前竜王自身も棋士の1人として参加した。その準決勝で対戦したのは佐々木勇気七段(当時は六段)。藤井七段の連勝記録を「29」で止めて将棋ファン以外にも名が知れた24歳との対局前に、羽生前竜王は囲み取材に応じた。

「このルールは若手の方が有利だとは思いますけども、私自身も今までやったことがありますし、楽しんでやれればいいかなと考えています」

 公式戦ではないというのもあるだろう。それでもスピード勝負で優位とされる20代との対局を「楽しむ」と言えるのは、対局ごとに凡人では気づき得ない新たな発見を見出しているからなのだろう。

 また、向上する意欲は自身だけでなく、この棋戦自体にも向けられていた。

「もちろんミスばかりしていれば、対局として成立しないんでしょう。それでもある程度棋士の技術も保ちながら、見てる人も面白いと感じられる内容になっているのならば、いいかなと思います。手がかなり早く進むので、見ている人たちにどういう風に楽しんでもらうかというのは、なかなか将棋の世界からでは分からないところですし、その辺りはAbemaさんに教えてもらっていければと思っています」

 短時間での決断を求められるぶん、棋士としてはミスが起こりやすい条件にも、人々に楽しんでもらいたいとの思いがあったのだ。

【次ページ】 様々な分野に興味を持って。

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