球体とリズムBACK NUMBER
モウリーニョは、やっぱり面白い。
愛と憎しみで彩られる稀代の策士。
posted2018/11/15 10:30
text by
井川洋一Yoichi Igawa
photograph by
Uniphoto PRESS
ユベントス・スタジアムでの逆転勝利の後に、マンチェスター・ユナイテッドのジョゼ・モウリーニョ監督が披露した表情と仕草を見ただろうか。
チャンピオンズリーグ・グループステージ第4節終了直後に、それは全世界に中継された。
手を耳の後ろに回し、片方の口角を上げ、目を半開きにし、「さっきまでの威勢はどうした?」とでも言いたげに、ホームのユベントス・サポーターを挑発。エリートチームを統率する55歳の指揮官としては、稚拙なリアクションと捉えられても仕方ないだろう。
スカイ・イタリアが報じたところによると、直後にユーベのパウロ・ディバラとレオナルド・ボヌッチは敵将のもとへ歩み寄り、「そんなジェスチャーをする必要はない」と伝え、ユナイテッドのレジェンドであるポール・スコールズは「不要なことをしたものだが、あれこそ、彼のやり方だ」とBTスポーツの番組で痛烈に批判した。
試合後の記者会見でモウリーニョは、「94分間を通して相手サポーターから侮辱され続けた。攻撃的だったのは自分のジェスチャーではなく、彼らの方だ」と興奮気味に語った。
ただし落ち着いてからは、「あんなことはすべきではなかったかもしれない。でも自分の家族やインテル(・ミラノ)時代のファミリーまでも馬鹿にされたので、つい(過剰に)反応してしまった」と自らの落ち度も認めている。
「フットボールはエモーションだ」
ユベントスのサポーターにとって、過去にインテルを率いて三冠を成し遂げたモウリーニョは憎き存在だ。そしてラテン系の人々が敵を罵る際に使う言葉には、時に聞くにたえない種類のものがあるという。きっとあの夜のトリノにも、露骨な雑言が響いていたはずだ。
以前、ある男性誌のインタビューで「フットボールはエモーションだ」とモウリーニョは言っていた。戦術や駆け引きに長けた指揮官が、そんな回答をしたことに少し驚いた。またそのなかで、「トップレベルのフットボールの監督は高給を取りすぎている。心臓外科医など、人間の生命に直接関わるような職業と比べれば、それは法外だ」とも語っていた。
現在、ユナイテッドから年俸1800万ポンドと言われる報酬を受け取っていることを考慮すれば、体裁を取り繕っただけかもしれないが、彼は欧州のメディアが頻繁に否定するほど、嫌な人物ではないと個人的には想像する。時折、彼の肥大したエゴが表面化するのは事実だけれども。