ブンデス・フットボール紀行BACK NUMBER
ベスト布陣でドルトムントに敗戦。
ついにバイエルン1強時代が終焉へ。
posted2018/11/16 10:30
text by
島崎英純Hidezumi Shimazaki
photograph by
Uniphoto press
フランクフルトのアパートメントを出たら、大家さんが廊下で仁王立ち。
「ちょっと、あんた。なんなのよ、あれは?」
家賃も滞納していないし、ゴミも分別しているので何のことかと頭を捻ろうとすると、速射砲のように言葉を浴びせてきました。
「バンヤンよ。バンヤンのことよ! 聞いたこともないチームに1点取られて、ぎりぎり2点取って勝ったからいいものの、つまんない試合しちゃって。まったく、もう!」
バンヤンとは、バイエルンを意味する現地独特の発音です。大家さんは10月30日のDFBポカール2回戦で、バイエルンがレギオナルリーガ(4部)のレディングハウゼンに2-1で辛勝したことに、ご立腹だったのです。
大家さんはそれほどサッカーに興味があるわけではありません。我が街のクラブであるアイントラハト・フランクフルトは「弱いから」関心がなく、バイエルンが気になるのも「娘が好きだから」という単純な理由です。大家さんは僕の仕事を知っているので、稀にサッカーの話題を振ってきますが、ここまで感情をぶつけてきたのは初めて。
サッカーに関心のない層にも注目されているのが、ドイツ国内におけるバイエルンなのです。
バイエルンが局面勝負で劣勢。
「バンヤンのことだから、これから挽回していきますよ」と返事をした僕ですが、そんな楽観的観測は今、早くも軌道修正を余儀なくされそうです。
DFBポカール2回戦のあと、バイエルンはブンデスリーガ第10節でフライブルクと対戦。しかし、ポゼッション率67%と試合を支配し、80分にニャブリが先制したものの、試合終了間際に同点弾を許して痛恨のドローに終わりました。しかも、ホームで。
このゲームのデータで気になったのは、ポゼッション率で相手を圧倒しながら、局面の1対1の勝敗を数値化した『ツヴァイカンプフ・クォーテ』は49対51とフライブルクに劣っていたことです。いかに戦術が高尚でも、戦略が緻密でも、局面勝負を制さなければ勝利はつかめません。