オリンピックへの道BACK NUMBER
伊調馨、復帰戦で規格外の強さ。
「100%の自分が分からないので」
text by
松原孝臣Takaomi Matsubara
photograph byAFLO
posted2018/10/22 08:00
パワハラ問題で揺れた伊調馨だが、東京五輪へ向けて歩みを進めた。
「100%の自分が分からない」
そして健在であることを示したのは、試合での姿ばかりではなかった。
試合後伊調は、「手ごたえとして、現在は何%くらいでしょうか」と尋ねられ、こう答えた。
「100%の自分が分からないので」
伊調の五輪4連覇を支えたのは、貪欲なまでに強さを追い求める姿勢だ。男子の試合で女子にはない技を見つけ出し、まだ未知の世界があると知った。そこに分け入り、より上手くなろう、どこまでも強くなろうという姿は、レスリングそのものを追求するかのようだった。伊調に心理的な“天井”はないのだ。
彼女の言葉は、これまでのスタンスと変わらないことを物語っている。驚異とすら思える向上心がそこにあった。
「苦しい時間」を過ごして。
また、伊調はパワハラ問題の渦中にいる間の心境も口にしている。
「苦しい時間でしたね。自分がレスリングをすることは自分勝手なんじゃないか、わがままなんじゃないかと自分の中で思いましたし、そこはすごく葛藤しました。“苦しい・やりたい・苦しい・やりたい・苦しい・やりたい”という繰り返しだったと思います」
それでもマットへと戻る要因となったのはやはり、自らが抱えるレスリングへの思いだった。
「(マットから離れている間)レスリングのビデオをよく観ていました。男子(の試合)を観るのが好きなので、世界選手権やヨーロッパ選手権とかアジア選手権、強い選手の試合を観ながら、展開やこの技をやってみたいと思っていました」
その思いとともに、もう1つの要因についても触れている。
「もっとレスリングをやりたいという気持ちがあったからマットに立てた。そして自分がマットに上がることを喜んでくれる方々がたくさんいます。だから、自分のためでもあるし、周りの方々のためでもあります。自分が復帰することでまわりの方が喜んでくれるのがいちばんうれしい。結果で恩返ししたいという気持ちがあります」