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伊調馨、復帰戦で規格外の強さ。
「100%の自分が分からないので」
posted2018/10/22 08:00
text by
松原孝臣Takaomi Matsubara
photograph by
AFLO
女王は健在だった。
2018年10月14日、三島市民体育館。この日行われた、レスリングの全日本女子オープン選手権で、伊調馨はマットに復帰した。
リオデジャネイロ五輪から2年2カ月ぶりの実戦となったが、その間にはレスリング界のパワハラ問題の渦中にあった。その関心からか、同大会では異例のメディア数が詰めかけ、観客の注目も大いに集めた。
そんな中で、伊調は57kg級にエントリー。髪を短くした姿で登場すると、初戦の島中斐子戦でいきなり地力を見せる。試合開始10秒ほどでタックルに入りポイントを奪うと、アンクルホールドを連続で決めて加点、38秒でテクニカルフォール勝ちを収めたのだ。
続く対戦相手は、世界ジュニア選手権優勝など将来を嘱望される澤葉菜子(さわ・はなこ)。第1ピリオドを2-2で終えた第2ピリオド、バックを取るとアンクルホールドで点を積み重ねると、相手の首と足を抑えてフォール勝ち。
3試合目となった決勝でも望月芙早乃(もちづき・ふさの)にフォール勝ち。復帰戦を優勝で飾った。
対戦相手が感じた伊調の実力。
もちろん2年2カ月のブランクは、ところどころに見え隠れしていた。2戦目では試合開始早々、澤に2点を先制されたし、望月との決勝でもよろめく場面が見受けられた。
そんな戦いぶりについて、伊調はこう言う。
「全体的に腰が高かったなという印象と、前に詰めることができなかったのが反省点です」
所属するALSOKの大橋正教監督は2点を先制された場面を分析しつつ、収穫を見つけていた。
「予想外の攻撃にあって、ディフェンスを誤った。予測ができていれば防げたと思います。トレーニング次第で行けるんじゃないかという感触を本人はつかんだと思います」
とはいえブランクがあっても、その強さは抜きん出ていた。
何よりも対戦した選手が伊調の実力を肌で感じ取っていたことが、試合後のコメントからうかがえる。島中は「今まで対戦した選手の中でずば抜けて強かったです」、澤も「さすがだなと思いました。ぜんぜん差があります」と語っている。