野球善哉BACK NUMBER
一瞬で空気を変えた西武・栗山巧。
打席に「思考」は持ち込まない。
posted2018/10/19 11:30
text by
氏原英明Hideaki Ujihara
photograph by
Kyodo News
畏怖。
ただそれしか思い浮かばなかった。
パ・リーグCSファイナル第2戦。17年目になるベテラン・栗山巧がパ・リーグCSタイ記録となる1試合6打点をマークして存在感を見せつけた。なかでも、初戦を落として危機感が漂う1回裏に3点本塁打を放ったのは驚くしかなかった。
「まさかのベストスイングができました」
ホームランという結果ではなく、打席でのアプローチを語る。謙虚さと少しのユーモアを交えたその語り口からいつも感じるのは栗山の特異な精神性だ。
そもそも、この日の試合を普通の精神状態で迎えられたはずがない。
10年ぶりにリーグを制覇しながら、前日のCSファイナル初戦は10点を失って大敗した。連敗となれば、チームにネガティブな空気が広がることは容易に想像できる。
そんななかで、1打席目に回って来たチャンスで結果を残した。
「連敗したら嫌な雰囲気になるのはみんな分かっていたと思う。でも、そんなかでもぼくはいつもと変わらずしっかりやろうと思っていました」
今日、勝てなかったら、先制の場面で打てなかったら……チームはどうなるか。
長くプレーをするほどに、その一瞬の重要さがわかる。いや、分かってしまう。しかしそうした周囲の視線や期待を、栗山は「余計なこと」と一蹴する。
「結局のところ、やれることは1つ」
栗山が常々話していたことがある。
ペナントレースの終盤や首位攻防戦など1試合の重みが増してくるなかでのメンタルコントロールについてだ。
「何を意識してもしなくても、シーズンの終盤や大事な試合というのはプレッシャーが重くなってくる。でも大事なのは、そんなプレッシャーを意識するくらいやったら、自分がどうすればいいスイングができて、いいプレーができるか考えるほうがいいんですよ。結局のところ、やれることは1つしかないんですよ。それは何かと言ったら、集中して自分が打てると思った球をしっかり打ちに行くということなんです」