野球善哉BACK NUMBER
一瞬で空気を変えた西武・栗山巧。
打席に「思考」は持ち込まない。
text by
氏原英明Hideaki Ujihara
photograph byKyodo News
posted2018/10/19 11:30
栗山巧の「頼れる感」はすさまじい。西武は若手とベテランのバランスが極めていいチームだ。
打席に入ったら、頭は空にする。
この日の1打席目も同じ精神状態で迎えたと、こう続ける。
「1打席目で一番いややったんは、チャンスが来た時に僕自身がその準備ができていないこと。チャンスがきて(気持ちが)負けてしまうのだけはせんとこうと思いました。そのあとは自分のスイングをするだけ。
確かに先制点が大事なことはわかっていました。でも、それはみんな同じなんです。先頭で塁に出たい、つないでチャンスを広げたい、ランナーを還したいって。誰もが思うんです。
でも打席に入ったら、そこは省いて自分のスイングをする。相手がどういう投手なのか資料を頭に入れて、また自分の打席が回ってくるまでの流れを考えたなかで、どの球を打つのが良いのかだけ考える」
ベテランになって出場機会が少しずつ制限されていくなかで、自分が起用される意図は痛いほどわかっている。そして、栗山自身も「ええ場面で打ちたい」という強い思いを持っている。
しかしそれは、打席に向かうまでのことだと割り切っている。
結果はコントロールできない。ベストを尽くした先に、結果が生まれるものなのだと考えている。
栗山は逆境でこそ輝く。
今季の栗山は、チームの苦境でこそ力を発揮してきた。
シーズン終盤、9月15日から始まった天王山・ソフトバンクとの3連戦の初戦では初回からタイムリーを放った。2日後にはミランダから初回に満塁本塁打を放っている。ミランダは、前回対戦で8回までノーヒットノーランに抑えられた嫌な相手だった。
CSファイナルステージ初戦でも、エース・菊池雄星が炎上して5点を失った直後の4回裏に、反撃のソロを左中間スタンドに叩き込んでいる。