“ユース教授”のサッカージャーナルBACK NUMBER
「スポーツで子供達に夢を」って?
湘南・梅崎司が見つけた、その答え。
text by
安藤隆人Takahito Ando
photograph byTakahito Ando
posted2018/09/08 17:00
ベテランとはいえ、そのプレーの“キレ”は今も凄まじい。梅崎司は、湘南の地でしっかり未来を掴んだ。
「個人的な感情は全く持っていなかった」
そして月日は流れ、彼は大分で自分の夢を実現させ、グルノーブル、浦和、そして湘南と、気づけばプロサッカー選手として14年の歳月を送っていた。そして……勝負の年、ついに彼は地元への凱旋を果たしたのだった。
迎えた長崎戦、湘南の7番を背負った梅崎はトランスコスモススタジアムのピッチに立つと、いきなりアグレッシブなプレーでチームの攻撃を牽引した。
「正直に言うと、自分の地元だからとか、自分がよくボールを蹴っていた場所だったからとか、そういう個人的な感情は全く持っていなかった。それよりもチームのことしか考えてなかったから。
長崎戦までチームはリーグ5試合と天皇杯で勝利がなく、4敗2分けだった。だからこそ残留争いをしている長崎を相手に、何が何でも勝ち点3をつかむことが必要だった。そんな時、個人的な感情は一切いらなくて、目の前の勝ち点3を絶対に掴む、と。それしか考えていなかった」
前線で何度もスプリントを繰り返し、ボールを引き出しては、得意のドリブルと巧みなパスを駆使して、チームを前に進めようとし続けた。0-0で迎えた32分、左サイドでMF石原広教がボールを持つと、ニアサイドで待ち構えていた梅崎は、バックステップで相手DF徳永悠平の視界から消え、石原がフェイントから一気に加速して持ち出すと、梅崎も深い踏み込みから一気に徳永の前へダッシュ。
石原から届いたグラウンダーの折り返しをダイレクトで合わせてゴールに突き刺した。
梅崎にとって待望の移籍後初のリーグ戦ゴールだった。
決めた瞬間、頭の中が真っ白になった。気が付いたら、自分の故郷の複雑な想いが詰まったスタジアムで大きなガッツポーズをしていた。
憧れのスタジアムが、美しく映った。
その後も切れ味の鋭いドリブルで攻めつつも、中盤で激しく身体を当ててボールを奪うなどして守備にも貢献。梅崎はさらに61分、左CKを正確にゴール前に送り込み、MF金子大毅のゴールを生み出した。
結局チームはその後にも加点し、3-1の完勝。フル出場した梅崎のゴールがきっかけとなり、湘南が公式戦7試合ぶりの勝利をつかみとった。
タイムアップのホイッスルが鳴り響いた瞬間……彼の心の中には、いつの間にか抑えきれない多くの感情が溢れていたという。
「小さいときに憧れていた小さなスタジアムが、こんなに大きく綺麗に改装されて、これだけのお客さんがスタンドに入っていて……。物凄くいい雰囲気で、温かい空間に映ったんですよ。
もちろんアップしている時や入場の時にも感じたけど、終わった後は、正直これまで蓋をしていた個人的な感情が一気にあふれてきたんで。
ここで移籍後リーグ戦での初ゴールが生まれたことは運命を感じたし、何より湘南サポーターだけでなく、長崎のサポーターの人までもが『梅崎』と名前を呼んでくれる声まで聞こえた。その中には子供達の声もあったんで」
この時、彼はある大事なことに気づいた。