“ユース教授”のサッカージャーナルBACK NUMBER
「スポーツで子供達に夢を」って?
湘南・梅崎司が見つけた、その答え。
posted2018/09/08 17:00
text by
安藤隆人Takahito Ando
photograph by
Takahito Ando
真のプロフェッショナルとは何か。
子供達に夢を与えるということはどういうことなのか。
31歳にしてその真髄に達しようとしている男がいる。それが湘南ベルマーレのMF梅崎司だ。
今季、10年間所属した浦和レッズから湘南に完全移籍した彼は、若手主体のチームにあって、ベテランらしからぬ溌剌としたプレーと、ベテランらしい落ちついたプレーを織り交ぜ、中心選手として活躍している。
1人のベテランプレーヤーとして、梅崎は今年「本当の自分を取り戻し、新たな自分と遭遇する年」と決めて、不退転の覚悟で湘南の地を踏みしめた。一昨年、昨年は怪我の影響もあり、選手層の厚い浦和において控えに回ることが多くなり、試合に投入されるのはいつも後半途中から。
しかも、その交代にしてもファーストチョイスではなかった。起用されるポジションは得意とするトップ下ではなく、ウィングバックでの起用が多かった。
「気持ちとしては試合に飢えていた。でも、もう勢いだけで突っ走ってはいけないし、逆に勢いを失い過ぎてもいけない。
ベテランと呼ばれる年齢になってきて、監督の考えや全体のバランスも意識するようにはなった。プレーの幅は広がっていったけど、それはそれで、本当の自分を解放できていないというもどかしさに繋がっていった。そう考えれば考えるほど『もっともっと勝負したい!』という思いがどんどん膨らんでいって……。
やっぱり俺はもっとギラギラしたいし、輝きたいし、ヒーローになりたい。そういう想いが強くなっていったんです」
「昔を知っているから、物足りなさを」
ベテランとしての立ち振る舞いを意識してしまう自分と、ルーキーの頃のようにあるがままの姿を見せたいという自分。
相反する2つの思いが入り交じり、もがき苦しむ梅崎を湘南の曹貴裁監督はずっと気にかけていた。
「司は大分トリニータのユース時代からトップ下で自由にプレーして、裏に飛び出したり、間で受けて仕掛けるのが本来のプレーだった。でも、浦和でのあいつを見ていて、昔のプレーを知っているからこそ、物足りなさを感じていました。
プロになってから良くあるじゃないですか、『あいつ昔はドリブラーだったのに、ドリブルをあまりしなくなったな』とか。彼もそういった印象でした。特に昨年はクローザーと言うか、守備に重きを置かれていたので、俺は『もったいないな』と思っていた。まだ十分できると思ったし、ウチならもっと輝けると思ったのでね」
曹監督は、その思いをすぐに実行に移し、梅崎に熱烈なラブコールを送った。
「俺ならお前をもう一度輝かせられる」
実は彼のもとには他にも魅力的なオファーが来ていたというが、曹監督の鋭い眼力とこの一言で、梅崎はすぐに決断を下したのだという。そして、溜まりに溜まった自らの思いを、曹監督にぶちまけた。
梅崎が吐露した熱い言葉の数々――指揮官は涙し、その時に梅崎はこの男の下で「本当の自分」を発揮してチームに貢献することを誓ったのだった。