“ユース教授”のサッカージャーナルBACK NUMBER
「スポーツで子供達に夢を」って?
湘南・梅崎司が見つけた、その答え。
text by
安藤隆人Takahito Ando
photograph byTakahito Ando
posted2018/09/08 17:00
ベテランとはいえ、そのプレーの“キレ”は今も凄まじい。梅崎司は、湘南の地でしっかり未来を掴んだ。
次々と目に入ってきた子供達の姿。
試合後のウイニングラン。スタンドに目を向けると、多くの人たちが梅崎の名前を呼び、拍手や手を振ってくれていた。
なかでも多く目に飛び込んできたのは、子供達の姿だった。
体全体を使って激しく手を振っている子供、照れくさそうにしながらも懸命に声を出してくれている子供、一心不乱に梅崎の名前を叫んでくれている子供……。そんな姿が、いつしか自分の昔の姿と重なっていった。
「バスに乗り込むときも、出待ちで多くのファンの方と子供達がずっと自分を待ってくれていた。それを目の当たりにして『あ、俺はやっぱりこの土地で生まれて、ここで育って、このスタジアムでの出来事に憧れてやってきてたんだな』と、とにかく自然に感謝の念がわき起こってきたんです。
自分がフリューゲルスの選手を見ていたときと同じ目線、同じ気持ちの子供達が目の前にいる。この瞬間を30歳過ぎて、長崎じゃないチームでプロになって、湘南のユニフォームを着て、逆の立場で長崎の子供達に何かを伝えることができたのかなと思うと、凄く嬉しくて……」
「子供達に『見られている立場』なんだなと」
彼にとって、そもそも諫早は大好きな場所ではなかったはずだった。むしろ「俺の心の故郷は大分」とまではっきりと言っていた時代まであったほどだ。
振り返りたくない、思い出したくない過去は数多くあるが、31歳の彼の目に映った故郷の諫早は、自分のサッカーを支えてくれた大事な場所であり、大切なものを教えてくれたかけがえのない土地となっていた。
「改めて、自分は子供達に『見られている立場』なんだなと思った。それは湘南でもそう。湘南の試合に来てくれる子供達に、俺は自分らしい姿を見せ続けていかないといけないと強く思った」
そして、長崎戦から5日後のルヴァンカップ準々決勝ファーストレグ。
湘南のホームにセレッソ大阪を迎えたこの一戦で、梅崎はこの言葉を全力で証明した。