サッカー日本代表PRESSBACK NUMBER
オシムの言葉で渡欧した日本人医師。
最先端のスポーツ医学に触れた衝撃。
posted2018/07/28 17:00
text by
手嶋真彦Masahiko Tejima
photograph by
Getty Images
ワールドカップのベルギー戦で大魚を逸したサッカー日本代表に、いったい何が足りなかったのか。「予防医学」が足りなかった。そう言われてもピンとこないだろう。「怪我の予防に活用できるデータの蓄積」が欠けていた。これでもまだ疑問符しか出てこないはずだ。
では「育成年代の指導者の目先の結果に囚われない勇気」が不十分だったと言えば、どうか。あるいは「怪我を押して試合に出場し、未来を絶たれた若い才能」と言えば?
まったく別の言い方もできる。日本でも怪我の発生や身体特性に関するデータの蓄積が進み、ヨーロッパのサッカー大国と同じように予防医学が広く行き渡れば、そして怪我をした育成年代の才能がスポーツドクターの勧めで痛み止めを飲むのを止めるようになれば、ワールドカップの制覇も夢ではなくなる。予防医学の効用は怪我の予防や減少だけでないからだ。
その考え方を応用すれば、個々のパフォーマンスの向上や、多彩な個性の躍動すら期待できるようになる。
スポーツ医療は欧米と比べて……。
ここからは、日本に予防医学の考え方を根付かせようと、すでに動き出している整形外科医の取り組みを紹介したい。以前は「なでしこジャパン」のドクターを務め、2015年にはアジアサッカー連盟の「ヤング・メディカル・オフィサー・アワード」を受賞した齋田良知(順天堂大学整形外科)の日本ではおそらく前例のない挑戦だ。
<日本のスポーツ医療は、欧米諸国から大きく後れを取っている>
そうかもしれないと薄々感じていた齋田が、完全にそうだと認めざるを得なくなったのは、2015年4月にイギリスのロンドンで開催された「サッカー選手の医療」だけを対象とする学会に出席してからだ。
衝撃は大きかった。学会で取り上げられている話題自体が、日本とかけ離れていただけではない。ドクターたちの姿勢がまったく違っていた。研究の先端性を競うのではなく、新たな知識や経験を進んで共有しようと努めていたからだ。情報をシェアする大きな目的は、怪我の予防と減少だった。