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オシムの言葉で渡欧した日本人医師。
最先端のスポーツ医学に触れた衝撃。
 

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手嶋真彦

手嶋真彦Masahiko Tejima

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posted2018/07/28 17:00

オシムの言葉で渡欧した日本人医師。最先端のスポーツ医学に触れた衝撃。<Number Web> photograph by Getty Images

大迫勇也のような上手くて強い選手を。日本サッカーにとって今後のポイントだが、齋田良知ドクターは欧州の地で見識を得ようとしている。

「怪我の予防」という概念がない。

 齋田によると、そもそもイタリアにあって日本にないのが「怪我の予防」という概念であり、そのためのスポーツドクターという考え方だ。イタリアのスポーツドクターは怪我を予防し、減らし、さらにはパフォーマンスを向上させるために存在する。

 日本は違う。怪我をしてからお世話になる、つまり手術をしてくれる整形外科医がスポーツドクターという位置付けだ。筆者でも想像できる。慢性化した怪我をせっかく整形外科の手術で治しても、痛みの原因を突き止めないままなら、再発するかもしれない。付け加えると、日本には怪我の予防やパフォーマンスの向上を専門とするスポーツドクターを育てるシステム自体が、事実上存在しないと言う。

 ACミランで齋田が仰天したのは、膨大なデータが蓄積されていたからだ。精密なデータを測定する機器も、システマチックな記録を担う人材も揃っている。例えば小学生年代でスクールに入り、そのまま育成組織に上がって高校生年代まで在籍した選手なら、どのようなトレーニングを何回して、試合でどう起用されたか、その間の体組成の変化やフィールドテストの伸び具合、そして怪我の履歴が細大漏らさず残されている。

 スポーツドクターはそうしたデータを怪我の予防に活用し、あるいはデータから怪我の原因を突き止める。さらには同じような身体特性を持った、より年少の選手の怪我の予防にも役立てる。言うまでもなく怪我が減れば、それだけ練習に打ち込める。質も上げられる。怪我が原因でサッカーそのものを断念するケースも減るだろう。

UEFAにはデータ共有の仕組みまで。

 こうした統計記録は、サンプルの数が多いほど価値も上がる。驚くべきなのは、ヨーロッパにはミランのようなクラブがいくつもあり、しかもデータを共有する仕組みすらできているからだ。

 UEFA(欧州サッカー連盟)が2001年から続けている「エリートクラブ・インジュアリースタディ」には、異なる18カ国から50以上のクラブが参加しており、そこにはレアル・マドリー、バルセロナ、マンチェスター・ユナイテッド、ユベントス、バイエルン、パリ・サンジェルマンといったトップクラブも含まれる。

 国と国の垣根を越えたこの調査から、練習量や試合間隔によってインジュアリー(怪我)の発生率がどう変わるか、どんな状況で怪我が増え、どんな身体だと怪我が起きやすくなるかなどを推定できる。ちなみにワールドカップ過去10大会のベスト4を調べると、その78%(延べ40カ国中31カ国)を欧州諸国が占めている。偶然であるはずがない。

【次ページ】 遺伝子を見て練習内容を変える試み。

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