ワインとシエスタとフットボールとBACK NUMBER
オシムからのW杯直前メッセージ。
「君たちはサッカーに何を求めるのか?」
text by
田村修一Shuichi Tamura
photograph byGetty Images
posted2018/06/16 09:00
欧州へ渡った日本代表選手を追い、多くのメディアも現地入りしている。国民の大きな期待を背負った代表チームは、本番でどこまでそれに応えられるか。
世界的に知名度が上がった日本サッカーの立場。
――日本は西野監督の最初の試合となったガーナ戦に敗れ、会心のスタートというわけにはいきませんでした(*このインタビューはスイス戦の前に行われた)。
「ガーナは誰を相手にしても常にサプライズを起こせるチームだ。選手のレベルも高く経験が豊富だ。若手とベテランがミックスした危険なチームでもある。彼らは能力に恵まれているうえに、ヨーロッパのビッグクラブでプレーしたいという野心があり、そうした自分の目的のために戦っているから親善試合でもとても危険だ。
選手も君らが全員を知っているわけではないだろう。だからとても驚いたはずだ。あまり情報のないチームに敗れるのはいいことではないのだがね……日本人はガーナという国がどこにあるのかもわからないのではないか(笑)」
――チョコレートは日本でも有名ですが。
「いい学びの機会だった。
どんな相手に対しても、ガーナ戦のように多くを学ぶべきだ。悪い面、良くなかった面ばかりを強調しても意味がない。誰もが存在を賭けて戦っているし、未来のために戦っている。
選手はヨーロッパに行くこともあるし、中国や日本に来ることもある。イニエスタの日本行きは、日本がサプライズを起こしうることの証明でもある。
それに、相手は日本に対して全力でぶつかって来る。というのも日本には確固としたベースがあり、能力のある決して愚かではない選手たちのチームであるし、急激な発展を遂げたプロリーグがあることを、彼らは理解しているからだ」
開催地であるロシアを日本はもっと知るべき。
――それでワールドカップですが……。
「忘れてならないのは、問題を問われているのはその国のサッカー文化であるということだ。どこに原点があって、どこへ行こうとしているのか――そして誰のためにどんなプレーするのか。
この世界には様々な問題が存在するが、サッカーの問題は、そういう分かりにくい問題ではない。北朝鮮やイラク、イラン……もう十分だろう。もっとサッカーの話、ポジティブな話を皆した方がいい。
あなた方日本人は旅が好きだろう? ロシアを旅するのは、それだけですでに何か得るものがある。日本人の多くが、何か大事なものをロシアから得られるはずだ。旅好きはそれだけでポジティブなのだから。
ヨーロッパはすでに知っているわけだから、今度はロシアの人々と親交を深め、彼らの人柄やメンタリティー、国を理解する。どんな文化がそこにあるのか、それを知るいい機会ではないか」
――おっしゃる通り、まずはこのロシアでの大会を楽しむことが、何よりも大事なのかもしれませんね。
「私の知る日本人はみな謙虚でコレクトだ。それぞれが持っている快挙でさえ、慎みに溢れている。
サッカー全体にとってもこのお国柄はとても良いことで、代表の快挙は国全体の喜びとなるはずだ。そうなればあなた方メディアもいい記事がたくさん書けるだろう(笑)」
――そうですね。楽しむことを忘れないようにします! メルシー、イバン。