球体とリズムBACK NUMBER
ジダン「我々人間は感情の生き物」
最高の選手は最高の監督でもあった。
posted2018/06/01 11:30
text by
井川洋一Yoichi Igawa
photograph by
Getty Images
青天の霹靂──。
ジネディーヌ・ジダンが、前人未到のチャンピオンズリーグ(CL)3連覇を遂げた5日後にレアル・マドリーの指揮官の座を離れた。記者会見に同席したフロレンティーノ・ペレス会長も「まったく予期せぬこと」と話し、「引き止めることも考えたが、ジダンの性格はよく知っている」と続けた。
フットボールにはサイクルがあると言われる。トップレベルでは、それを3、4年と捉えている人が多い。ジョゼップ・グアルディオラがバルセロナの指揮官を降りたのも4シーズンを戦い終えたあとだったし、ジョゼ・モウリーニョはほぼ3年おきにビッグクラブを渡り歩いている。ジダンも同じように考えたようだ。
「このチームは勝利し続けなければならず、(そのためには)変化が必要だ。3年が経ち(実際は就任から約2年半)、チームには異なる言葉と異なる仕事の方法が必要(と考えた)。だから、私はこの決断に至った」
引き際としては、これ以上ないタイミングかもしれない。2年半前に途中就任したシーズンからCLで勝ちっぱなし。CL初の連覇を遂げた後、その数を3まで伸ばした。ヨーロピアンカップ時代まで遡っても、1970年代のヨハン・クライフのアヤックスと、フランツ・ベッケンバウアーのバイエルン・ミュンヘンに肩を並べた。
もはやこれを上回るのは1950-60年代の大会創成記に、当のマドリーが成し遂げた5連覇しかない。ただし時代を考慮すると、ジダンの率いた白い巨人の偉業のほうが輝きを増す。
ジダンにつきまとった2つの疑念。
思えばこの2年半のあいだ、我々フットボールファンやジャーナリストは指揮官ジダンの手腕について何かと探ってきた節がある。戦術がないとか、選手のクオリティーが高いだけだとか、否定的な意見もたくさん見聞きした。
ひとつめの意見については、CL決勝前日の会見で両監督にぶつけられた。すると敵将のユルゲン・クロップは「笑わせてくれるよ」と一蹴し、ジダン本人は「人々の言論をコントロールすることはできないが、それは私にとって重要ではない。大切なことは、全力を尽くして、自分の仕事をやりきること。選手にも常にそう言っている」と冷静に答えた。
ふたつめの意見は、半分は正しい。レアル・マドリーという世界一のクラブには、いつの時代も最高の選手が集まる。アルフレッド・ディステファノ、フェレンツ・プシュカシュ、ピッリ、ラウール、ロベルト・カルロス、そしてクリスティアーノ・ロナウドなどなど、欧州を制した面々だけでも枚挙にいとまがない。