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ジダン「我々人間は感情の生き物」
最高の選手は最高の監督でもあった。 

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井川洋一

井川洋一Yoichi Igawa

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photograph byGetty Images

posted2018/06/01 11:30

ジダン「我々人間は感情の生き物」最高の選手は最高の監督でもあった。<Number Web> photograph by Getty Images

「この人はフットボールをどれほど深く知っているのだろう」そんな疑問を持たせてくれるジダンのような存在は本当に稀有だ。

革新的な戦術だけがフットボールではない。

 とはいえ、ジダンほど短期間に至高のタイトルを獲得し続けた指揮官はいない。大会初期の欧州5連覇も3人の監督によってもたらされている。しかもジダンは監督に就任してから、ほとんど大きな補強をしていない。若いスペイン人選手や下部組織出身者を加え、マドリーのアイデンティティを取り戻そうとしていたような節さえある。

 そしてマルコ・アセンシオを筆頭に、何人かの若手をマドリーほどのビッグクラブでも重要な戦力となるまでに成長させた。

 革新的な戦術を求める人々の気持ちもわかる。ただ、そこだけに固執してしまうと、フットボールの本質を見失ってしまうと僕は考える。技術、運動能力、身体能力、精神力、人間性、経験、情熱、反骨心、知性、風格など、多くの要素が問われるのがフットボールであり、あくまで戦術もそのひとつの側面だと思う。

「私は自分の仕事が大好きなんです」

 勝利の秘訣を問われると、ジダンはいつもこう言っていた。

「多くのハードワークと高い能力。それに継続性だ」

 そして何よりも重要なのは、彼を突き動かしている、このスポーツに対する愛情だろう。ファイナル後の会見では次のように語った。

「私は自分の仕事が大好きなんです。選手としても、指導者としても、フットボールを愛しています。そしてすべての瞬間を楽しみたい」

 CL決勝の前日練習は、すべてメディアに公開される。昨季も今季もマドリーのトレーニングに特別なものはなかったように見えた。いや、難しいことはしていないけれど、最後のシュート練習でジダンがパスの出し手になるのだから、これ以上に特別な練習はなかったと言えるかもしれない。

 選手がジダンにパスを当てると、ダイレクトでおそらくわざと強いボールを返す。ピッチでもサイドラインでもフットボールを極めた人は、トップレベルの戦場にたやすくボールを処理する機会が少ないことを知っているからだろう。それにしてもあのシルキーなタッチは、ちっとも錆び付いていなかった。

【次ページ】 あのヘッドバットも説明がつく。

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