大相撲PRESSBACK NUMBER
相撲界のセカンドキャリア整備を。
学生力士たちが公務員と迷う現状。
text by
西尾克洋Katsuhiro Nishio
photograph byKyodo News
posted2018/06/04 07:00
栃ノ心の大関昇進はめでたいが、その陰で多くの力士が静かに引退していくことも忘れてはならない。
幕下の年収は100万、十両は1000万。
これが大相撲の厳しさだという言葉で片付けることもできる。幕下は年収が100万円程度で、十両は1000万円を超える。中間は無い。
そういう中で未来を掴むために生きる男たちの生き様が胸を打つということも事実だ。幕下上位の取組が一番面白いという相撲ファンは多い。私が「幕下相撲の知られざる世界」というブログを始めたのも、吐合(はきあい)という力士が元学生横綱でありながら全治2年の大怪我を負い、そこから這い上がって幕下で闘い続けるところに感銘を受けたからだった。
とはいえ、個人的な想い入れを排して考えると、やはり今のままでは困るのだ。
遠藤の登場に端を発する大相撲人気に沸いた2013年以降も、年間入門者数は70名から80名で推移している。若貴ブームに沸いた最盛期に223人の入門者が居たことや、その前後も140名程度で推移していたことを考えると、これはやはり少ないのである。
単純に母数の数が半減しているのだから、将来を担える力士も減少するのは明らかだ。
進路で力士が迷うのは公務員?
しかもこの現象は今に始まったことではない。最後に100人を超えたのは2005年のことである。奇しくもこの年代で入門したのが豪栄道や栃煌山といった昭和61年世代の高校卒業時で、まさに彼らが今の大相撲を支えていると言えるのではないかと思う。
そしてこの世代を最後に、横綱は誕生していない。付け加えると、その後12年の入門者の中からは、大関すら3名しか登場していないのだ。
中学校や高校を卒業後、大相撲の門を叩く力士の割合は減少傾向だ。そして、大学を経て大相撲を目指す力士の割合が増えているのだが、彼らが今、キャリアで天秤に掛けているのは公務員であることが非常に多いという。
とある上位力士は元々和歌山県庁に入るという情報で、角界入りしないという話だったのだが卒業直前に翻意して大相撲の世界に入った。他にも教員の道と最後まで迷った末に角界入りした力士もいる。
大相撲は、公務員などのキャリアと厳しい目で比較される世界なのである。