ぶら野球BACK NUMBER
高校球児を獲る前に母親の尻を見ろ!?
伝説のスカウト、その恐るべき眼力。
text by
中溝康隆Yasutaka Nakamizo
photograph byKyodo News
posted2017/08/30 07:30
1998年のドラフトの頃……福留(中央)に挨拶する(写真左から)中日ドラゴンズの中田宗男チーフスカウト(現編成部長)、本田威志編成部長。
野村監督ととことん合わなかった名スカウト。
そんな海千山千の野球ゴロだけじゃなく、時に味方のはずの自軍の監督も敵になる。
片岡は当時ヤクルト監督の野村克也と決定的に性格が合わなかったのである。
お互いに現役時代は捕手だったので、人の心の裏を読み容易に他人を信用しないところがある。あの古田敦也(トヨタ自動車)の指名の際も直前まで揉めた。
野村は「眼鏡のキャッチャーはいらん。大学出で日本代表だからと言っても所詮、アマチュア。元気のいい高校生捕手を獲ってくれ。わしが育てる」と主張。
ドラフト当日もとにかく投手の指名にこだわり、抽選で野茂英雄(新日鐵堺)を逃すと外れ1位で西村龍次(ヤマハ)を指名。片岡も古田に「ヤクルトしか行かない」と言わせた手前、ここで引き下がるわけにはいかない。なんとか野村を押し切り2位指名に成功した。
結局、入団1年目から古田は106試合に出場するわけだが、たとえ望んでいなかった指名だとしても、実際に見ていい選手と思ったら躊躇なく使って育てる野村もプロなら、ボスにもクビ覚悟ではっきりと自分のこだわりを主張する片岡もプロである。
後年、そんな野村を「眼鏡のキャッチャーはいらない、と言ったはずが、いまでは古田はわしが育てた愛弟子にすり替わっている」なんて皮肉っているのはご愛嬌だ。
技術は入団後に教えられるが、性格は変えられない。
そんな野村に干され心折れてしまった立教大学野球部後輩の長嶋一茂の甘さを目の当たりにし、片岡は言う。
「逃げるな。プロ野球選手にもっとも大切なのはハートだ」と。
ボールひとつ、バット一本でカネを稼ぐには、相手を飲み込む気迫が最後にものを言う。興味深いことに河西俊雄も内向的な性格より、闘争心が前面に出る選手をプロ向きと好んだ。
これは同時にこうも言えるのではないか。
野球の技術は入団後に教えることができる。しかし、その子の性格までは変えられない。だからこそ、野球はもちろん、彼らスカウトは人を見るのだ。そう考えると、河西の本のタイトル『ひとを見抜く』は我が意を得たりである。
同時代を生きた2人のスカウト。片岡は16歳上の河西のことを敬意をこめてこう評している。
「カワさんは、スカウトとして“名”のつく最後の人」だと。